東山紀之最後のテレビ作品『必殺仕事人』を観た。例年は新年のスペシャルドラマという扱いだが、東山さんが今年をもって芸能界を引退することを表明していることから年末の放送となった。サブタイトルに年号がないのも年始放送の「2023」と被るから避けるしかなかったが、他に適切なサブタイも浮かばなかったので「なし」ということなのだろうか。
『必殺仕事人』シリーズは「晴らせぬ恨み晴らします」と要は「権力者に酷い目に遭わされたのに、法的には裁けず泣き寝入りするしかない庶民の恨みをお金と引き換えに仕事として晴らしてあげる」みたいな話。世の中そういうやり切れない話は山ほどあるし、本シリーズはかねてより時事ネタを入れることで社会風刺ドラマ的なポジションも得ていた。ただ今年はジャニーズ事務所の創業者兼元社長のジャニー喜多川氏の性加害問題が大きな注目を集めたことで、「今、ジャニタレばかりの仕事人やられてもさ…」みたいな感じは正直あった。
そんな中で今回の前半のテーマとなったのがまさかの「芸能界の性加害問題」とジャニー喜多川氏の件を連想せざる得ない設定。本シリーズの撮影は例年年始という放送時期からするとビックリするくらい早い時期に撮影されているらしく、どうやらレントゲン写真の日にちが放送日と撮影日になっている、みたいな説もあるが、それに当てはまると本作の撮影は今年の1〜2月あたり。ジャニー喜多川氏の疑惑が大きな注目を集めるキッカケとなったBBCの報道は3月だったので、意図した内容ではなかった可能性が高い。ここにフィクションの持つ偶然による後から意味が持たされてしまう怖さを感じたりもする。
物語の描写も夢を持って芸能界に入って来た女の子が絶対的権力者に襲われ、「泣き寝入りしかないのか…」と思い悩むも「自分の踊りが汚されたんだ、許せない!」と自らの気持ちを再確認することで訴えを起こすことを決意。ただ加害者サイドからはシラを切られ、仲間内からは「ついて行った方が悪い」と責められ、瓦版に実名告発をするも世間は「売名に決まっている」と誹謗中傷。被害女性は自ら命を絶ってしまう。観ている間は「あの時もつい最近も見たやつだ…」と心理的に辛くなる。
本作では最終的に彼女のファンが仕事を依頼することで恨みを晴らして終わりだったが、現実世界でジャニー喜多川氏は既に亡くなっているし、東山さんはこれから補償会社の社長として被害者救済への本腰を入れる。それにしても撮影時期はこんなことになるなんて全く想定していなかっただろうから、東山さんの引退作に関わらずそんな気配はない。本シリーズが今後どういう展開をするかは不明だが、次の作品に東山さんがいないという実感が湧かない。まだまだ活躍して欲しかった。個人的に東山さんはジャニーズ事務所を守るために自らが矢面に立ったのだと思う。でもジャニーズ事務所は消滅した。これだと本当に貧乏くじを引いた形だ。もちろんジャニー喜多川氏の疑惑を全面的に認めた上で社名変更をしないままいけるという当時の認識が甘かったことは否めないが、ちょっと可哀想だ。本人の決意の前に別にファンでもない自分がこのようなことを書くのは痴がましいということは百も承知だし、東山さん的には「夢や希望を握りつぶされた彼らと、“夢をあきらめた僕”でしっかり対話をすることがいいのかな」という決意の元の引退であることも理解しているつもりだが、被害者救済がひと段落したらまた表舞台に戻ってきて欲しいな、と感じる。
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