映画『8番出口』を観た。
- ヒットゲーム『8番出口』の映画化作品
本作は2023年にKOTAKE CREATE(コタケクリエイト)が開発したゲームソフトを二宮和也主演、東宝で数々のヒット作をプロデュースしてきた川村元気監督で実写映画化した作品。オープニング興行9.53億円で今年公開の実写邦画で最高のスタートとなり、最終興行50億円以上を見込める大ヒットとなっている。原作のゲームは「一人称視点で駅の構内を模した無限に続く地下通路に『異変』を発見したら引き返し、『異変』がなければそのまま進む、を繰り返して『8番出口』を目指していく作品」で主人公の属性もストーリーもなく、所謂「自分の記憶をベースにした間違い探しゲーム」でシンプルかつ数時間もあればクリア出来ることから非常に実況配信にマッチ(個々の配信者の性格を楽しむことも出来るし、一緒に間違い探しを楽しむことも出来るし、攻略法を熟知した後なら初見プレイの実況者への共感や高みの見物も出来る)していることから話題となった。
- 監督の川村元気プロデューサーの凄み
そんな流行ゲームを「B級ホラーテイストで実写映画化」してしまうのではなく、国民的スターで、役者としての評価も高く、ゲーム好きとしても有名な二宮和也を主演にキャスティングし、「『異変』を見つけないと抜け出せない無限ループ」というゲームの設定に社会派視点の意味を持たせることで、エンタメでありながらアート的な側面を持つ映画に仕上げ、批評的・興行的成功を収め、グローバル展開までも視野に入れる「敏腕プロデューサー川村元気」の凄さを改めて実感させられた。
以下ネタバレ
- 作品テーマに対するおじさんの扱いへの不満
例えば今回のテーマは「無関心の罪」。殺人や盗みってほとんどの人はやりません。でも、電車で怒鳴っている人を見て見ぬふりしたり、戦争で困っている人から目を逸らしたりする。そんな無関心の罪が、自分も含めたみんなの心の中に累積ポイントのように溜まっているんじゃないかと感じていて。現代は人が集まる空間でもみんながスマホを眺めていて、どこか孤立しているような感覚もあって、その孤立した人たちは、誰かと繋がることができるのか? というテーマもありました。
映画『8番出口』の小説版が発売! 川村元気監督が語る、ゲームから生まれた”物語”の秘密 | アーバンライフメトロ - URBAN LIFE METRO
個人的にもボレロと共にスクリーンに大きく映し出される黄色をバックにした黒文字の作品タイトルとゲームを彷彿とさせる一人称視点の冒頭から一気に作品に引き込まれ、そのまま飽きることなく最後まで面白く観れた。大ヒットも納得のクオリティだったように思う。「電車内で泣き止まない赤ちゃんの母親を怒鳴りつけるサラリーマンに対して何も出来ずに、ただ見て見ぬふりするしかなかった主人公」が、「8番出口」に迷い込んだことで、精神的成長を果たして、脱出した後には「異変に対して行動に移せる自分」になっているというプロットもシンプルだが、良かった。ただ「そういう異変に対して行動できるような自分になる成長」を描いた作品の割に、主人公視点では実は主人公と同じく「8番出口」に迷い込んでしまっていたことが明かされるおじさんは、最後まで「こいつは人間じゃない、バケモノだ」のまま終わってしまう。ゲームプレイヤーとしてはおじさんのバックボーンが明かされる展開は本作最大のサプライズだったし、その過去を知った後ではそれまで記号的要素でしかなかったおじさんへの見え方が大きく変わった。それだけに「あっ、このテーマで主人公視点でおじさんへの価値観の反転による救済みたいのはないのか…」というテーマとプロットの不一致感はあった。
- 最後に…
そんなこんなんで「主人公と同じ境遇に居たおじさんの異変に気づくことが、主人公の成長に繋がるみたいな展開に上手く落とし込めなかったのか…」みたいなことは思ったが、ニノの演技も駅の地下通路のセットも素晴らしく、面白い映画ではあった。
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