[注意]「検察側の罪人」のネタバレに触れています。
木村拓哉主演「検察側の罪人」が全国335スクリーンで封切られ公開3日間で興収5億8000万円を突破する好スタートで初登場1位を獲得した。最終興行は25〜30億円辺りが見込まれている。そんな木村拓哉は「HERO」でも検事役を演じているが、今回は「検察側の罪人」の最上毅と「HERO」の久利生公平を比較してみたい。
- 正反対の2人
「HERO」の久利生公平はキムタクのパブリックイメージを全開にしたキャラクターだ。トレードマークのオレンジのジャケットを羽織って、事件の真相に納得が行かなければ自ら現場に出向き聞き込みを始める。所謂「型破りな検事」という肩書きに相応しい存在だ。
その型破りさはビジュアルにも現れている。劇中で彼は基本的にスーツは着ずに、休日のプライベートの如くジャケットやYシャツ・Gパンを着用している。また髪の色は明るい茶色に染めてロングヘアーで前髪を下ろしていてとても検事とは思えない格好だ。
彼は経歴も変わっており中卒から検事までのし上がってきた。キャリアにも拘らず、自由奔放で出世にも余り興味がなさそうなイメージだ。
一方で最上毅は多くの人がイメージする検事を体現した存在だ。学歴は当然大卒で服装はスーツを着込み、髪型は黒髪短髪で前髪を上げてシッカリとキャリアを積み上げてきたであろう重みを感じさせる。喋り方もキムタクらしさは全く無く、声のトーンが普段とは大きく変えられており少し嫌な感じすらする。ちなみに久利生が未婚なのに対して、最上は既婚なのも相違点だ。
- 2人の正義の違い
ただ今回の「検察側の罪人」の最上毅は、「HERO」の久利生公平の単純に逆のイメージを表面的に演じるだけのセルフパロディには終わっていない。それは2作品のオープニングクレジットの違いからも見て取れる。
「HERO」のオープニングクレジットは久利生公平がシッカリと前を向いて歩くお馴染みのモノだが、コレは久利生公平のブレない正義を象徴している。
#検察側の罪人 いよいよ本日公開です。劇中に作品採用して頂きました。どうぞ宜しくお願い致します。https://t.co/n8bLRXwW3z pic.twitter.com/ePpT7SSIS1
— 古賀勇人 写真家 (@hayatokoga) 2018年8月23日
一方で「検察側の罪人」のラテン調の音楽で彩りながら都会の写真をシンメトリーを見せている。コレは最上と沖野の対立する正義や最上の中で混沌としている正義を象徴しているように見て取れる。
また「検察側の罪人」では最上が親友が亡くなったと報告を受けるシーンでは窓のブラインド越しから入る光と陰で白と黒が入り混じっている演出で彼の中の正義のバランスが壊れる様子を表現したり、最上が弓岡のいるラブホテルに向かう車の中のシーンでは彼の心情を表すようにカメラが揺れ動き何処か落ち着かない演出になっている。
久利生公平の正義は「第三者が見ても絶対な正義」だが、私怨に基づいた最上毅の正義は「第三者が見ると絶対ではない」対照的な正義になっている。
- キムタクの目の演技
今回のキムタクは個人的に目の演技が凄く良く感じる。例えば「HERO」だと目を常に相手から逸らすかとなく真っ正面から話す事で彼のブレない正義を象徴していた。また感情的になるシーンでも怒りの矛先を一方に向けその相手から絶対に目を逸らそうとしなかった。
ただ「検察側の罪人」では彼の心理状態を表現するためにキムタクは目を使って演技をしている。特に車の中で拳銃を手にするシーンは大画面のスクリーンではないと見落としてしまいそうな細かい表情の変化で彼の葛藤を表現している。それでいてキムタクっぽさが出ていないのも素晴らしい。キムタクの過去作品は目や口を使った細かい動きをするシーンは良くも悪くもキムタクらしさが出る事が多かった。しかし本作ではソコがノイズにならない。
また二宮和也演じる沖野との対決シーンでは、自分に分が悪いと自覚すると机を叩き椅子を回して背中を見せる事で目を背ける。ここにも最上の性格が滲み出ている。
- 「HERO」の魅力
今回のエントリーは「検察側の罪人」公開中の為、どうしても「検察側の罪人」のが「HERO」より優れているという論調になりがちである。
ただ「HERO」もエンタメとして楽しめるのは当然として、若い人達が検事という職業に憧れを抱く動機を作るキッカケにもなるし「HERO」は「HERO」で多くの魅力が詰まっている作品だと思う。また「HERO」で検事に憧れた人や純粋に楽しんだ人が、同じキムタク主演作品の「検察側の罪人」を観て色々な角度から検事という職業を考えるキッカケにもなるしどっちが優れているとかいないとかではなく2作品共観て相乗効果で楽しめれば幸せなのではないかと思います。
- 最後に…
個人的に「検察側の罪人」の最上毅を演じた後のキムタクが「HERO」の久利生公平を演じたらどうなるのか非常に興味があります。特に今回の「検察側の罪人」で示した自分のストーリーに固執した結果生まれた歪んだ正義に対して久利生公平ならどういう答えを出すのかも気になりますね。
「検察側の罪人」は大ヒット公開中です!
(C)2018 TOHO/JStorm
(C)2015フジテレビジョン ジェイ・ドリーム 東宝 FNS27社