今回のエントリーは実写版『BLEACH』の続編について解説します。
実写版『BLEACH』の概要
2001年から2016年まで『週刊少年ジャンプ』で連載され、累計発行部数1億2000万部を超える久保帯人の大ヒットコミックスを福士蒼汰主演で実写映画化。監督には『GANTZ』『アイアムアヒーロー』『いぬやしき』など数々の人気マンガの実写映画化のメガホンを取った佐藤信介を迎え、エグゼクティブプロデューサーは『るろうに剣心』『銀魂』などの小岩井宏悦が務めた。
ラストで『死神代行編』のクレジット
実写版BLEACH観たけど、続編やるつもりか pic.twitter.com/jrrlHMOVwz
— ジェラルド☣Gerald McGuffin a/k/a/ Matt Jack-Rabbit (@Gerald_glared) 2018年12月31日
本作はエンドクレジット前のタイトルクレジットでオープニングクレジットではなかった『死神代行編』の文字がクレジットされる。原作の『BLEACH』は『死神代行編』『尸魂界篇』『破面篇』『死神代行消失篇』『千年血戦篇』の5編で構成されており今回実写映画化されたのは原作の1-8巻に当たる序盤の部分だけに過ぎない。つまり本作のラストで『死神代行編』とクレジットしたという事は続編である『尸魂界篇』への布石だと考えられる。
公開前から続編のシナリオ執筆
第二の『るろ剣』に!実写『BLEACH』が目指すもの #BLEACH https://t.co/X3bvTNSQo5
— シネマトゥデイ (@cinematoday) 2018年5月23日
前置きが長くなっているが、実は本作の続編の構想については公開前のインタビューで既に「次は尸魂界(ソウル・ソサエティ)篇をやりたい」と小岩井エグゼクティブプロデューサーによって語られている。更に「続編のシナリオを作って2018年の結果を待つ」と公開の2年前である2016年の段階から続編を視野に入れて製作に取り組んでいた事が分かる。
ワーナー・ブラザース映画続編の基準
ワーナー・ブラザースは近年数多くの人気マンガの実写映画化作品を公開しており、その中でも続編を視野に入れて製作されたと考えられる作品が数多く存在する。ココでは続編が作られた作品と作られなかった作品の1作目の興行収入を比較したい。
- 続編が製作された映画
『るろうに剣心』
興行収入: 30.1億円
『銀魂』
興行収入: 38.4億円
まず近年続編が製作されたのは2013年公開の『るろうに剣心』と2017年公開の『銀魂』の2本だ。前者は興行収入30.1億円、後者は興行収入38.4億円と共に大作日本映画の大ヒットの目安の1つとして挙げられる興行収入30億円を見事に突破している。
- 続編が製作されなかった映画
『テラフォーマーズ』
興行収入: 7.8億円
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』
興行収入: 9.2億円
『鋼の錬金術師』
興行収入: 11.0億円
次は続編が作られなかった作品の興行収入だ。『テラフォーマーズ』は興行収入7.8億円、『ジョジョ』は興行収入9.2億円、『ハガレン』は興行収入11.0億円と全作品興行収入10億円前後に留まっている。
『BLEACH』の最終興行収入は約5億円と厳しい結果に終わった。本作の製作費は実写邦画の中でもトップクラスの予算が注ぎ込まれていると言われていた事からも、正直続編は望めない可能性は高いだろう。
残された伏線と続編の展開予想
ココからは残された伏線の紹介や続編で展開されたであろう物語の予想をまとめる。
- ルキアの罪の償い
本作では原作同様ラストで一護に死神の力を与えてしまうという重罪を犯したルキアは自ら尸魂界に帰り罪に対する罰を受ける事を決める。劇中で罰の具体的な内容は明かされていないが原作では彼女の罪は死刑に値し、一護は彼女を救う為に尸魂界に乗り込むはずだったと思うが興行的に失敗したので乗り込めなくなった。
- 一護の記憶
ココは原作からの改変ポイントだが、一護は死神の力だけではなくルキアを含めて死神に対しての全般の記憶を失う。
恐らく続編では1作目では絡みがなかった浦原喜助の助けの元でルキアに対する記憶と自身の中に眠る借り物ではない自身の中に眠る死神の力を取り戻す展開が用意されていたと予想されたが、興行的に失敗したので一護の記憶と死神の力は永遠に戻らない。
- 井上とチャドの霊圧
駅前バスロータリーのハンバーガーショップで多くのクラスメイトが何が起きているのか戸惑う中で、井上とチャドの2人は死神の一護を感じる事が出来た。恐らく続編では2人の能力が開花して一護と共にルキア救出の手助けをする展開が待っていたはずだが、興行的に失敗したので原作を知らない人には恋する乙女の直感や男同士の友情で一護を感じ取れた的なシーンになってしまった。
- ソウル・ソサエティ
本編で一瞬だけ映るソウル・ソサエティの風景。CGスタッフもここぞとばかりに力を入れたシーンだろうから、続編で更なる世界観を構築していきたかったのではないかと推測される。
- 一護の父親
一作目では一護の父親役以上の活躍はしない黒崎一心もベテラン俳優である江口洋介を起用している事から原作同様死神の力を発揮する展開が待っていたと予想される。ただ続編は出来なそうだからギャラが高く付いただけになりそうだ。
1作目から白夜を出した意味
本作はグランドフィッシャー戦までを1本の劇場用長編映画としてまとめて、ヒットしたら続編に繋がるがコケてそのまま終わっても違和感がない作りにも出来たはずだ。しかし出来上がった作品は原作の時系列を変えて恋次と白夜を登場させ、ルキアがソウル・ソサエティに連れ帰られる展開まで1作目で見せている。つまり続編を作らないと物語として成立しない作品になっている。
ココで何故1作目から恋次と白夜を登場させたかを考えてみた。恐らく製作陣側には「原作の人気キャラを登場させたい!」という気持ちや「『るろ剣』のようなソードアクションをやりたい!」という気持ちもあったと思う。ただその他にも1作目から登場させる事で『スター・ウォーズ』におけるダース・ベイダーや『ハリー・ポッター』におけるヴォルデモートのようなシリーズを通して登場する最強の敵キャラとして置きたいという狙いがあったのではないかと考えられます。そして1作目では手も足も出なかった一護がシリーズ最終作の最終決戦で因縁の相手に勝ちルキアを取り戻す事でシリーズを通して一護の成長を描く『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』の様な壮大な映画シリーズを作りたかったのではないかと推測出来る。
現に本作のプロダクションノートを読むと以下の様な記述がある。
重要なのは、限られた尺で、一大叙事詩の中の誰と誰のどんな話を語るべきなのか。「一護とルキアのラブストーリーでは原作から逸脱してしまう。我々の選択は“一護とルキアの友情”にすることでした」
コレはうがった見方をすれば「一護とルキアのラブストーリー」を描こうと検討した程、実写映画版では「一護とルキア」の物語にフォーカスを当てたという事が読み取れる。つまり1作目で一護が白夜に負けてルキアを失って終わるフラストレーションが溜まるラストの理由は、最終作で白夜に勝ってルキアを取り戻して終わるという1作目と対になるカタルシスあるラストを実現する為の壮大な仕掛けだったという事が考えられる。その一方で単体だと物語の軸がブレて中途半端な作品となってしまっているので、製作陣の狙いを伝えるには1作目の展開を生かした続編を製作して観客にカタルシスを与えるしか無いが興行的失敗によりその機会は永遠に失われた。
ワーナー製作の実写映画の今後…
本作公開時に当ブログでは「実写版『BLEACH』も大コケ… ワーナー・ブラザース製作・人気マンガ実写映画化の歴史」というエントリーを書いており、その中でワーナー映画のフランチャイズ化の方法に日本映画の可能性を感じながらも『ジョジョの奇妙な冒険』『鋼の錬金術師』『BLEACH』と大コケが続く状況だとビジネスモデルとして成立しないのではないかと指摘した。
その後『銀魂2』公開時の小岩井エグゼクティブプロデューサーのインタビューを読むと以下の様な発言がある。
これまでは、売れている少年コミックを破格の予算をかけて実写化して、CGやアクションもふんだんに夏休み映画やGW映画として公開して、1作目が成功したらフランチャイズ化する、ということを最優先にして来ました。ただ、他社さんを含めてうまく行っているのは『るろうに剣心』と『銀魂』の2シリーズしかなく、打率が悪くなってきています。
(中略)
もちろん今まで通り「強いコミック原作を実写化する」というやり方もしつつ、別の方法も模索しないとダメだなと・・・。
この発言から小岩井エグゼクティブプロデューサーも現在の状況に危機感を抱いている事が分かり、コミックス原作の実写映画化だけでなく他のビジネスモデルも模索していくとしている。
(C)2018 映画「BLEACH」製作委員会
最後に…
新たなビジネスモデルを模索する一方で、今後もコミックス原作の実写映画も続けていく方針らしいので『デスノート』『るろうに剣心』『銀魂』のような興行的成功作品と『テラフォーマーズ』『無限の住人』『ジョジョの奇妙な冒険』『鋼の錬金術師』『BLEACH』のような興行的失敗作品の分析から導き出されたノウハウをもとに面白くて興行的にもヒットするコミックス原作の実写映画を作り出して欲しいです。