ネタバレ注意
TBSテレビの吉高由里子主演・金曜ドラマ『最愛』の最終回が放送された。
※以下ドラマ内の性被害描写にも触れてるので注意
- 本作の魅力は「犯人探し」ではなく…
本作は連続殺人事件の重要参考人となる吉高由里子演じる実業家の真田莉央、彼女を取り調べる松下洸平演じる刑事・宮崎大輝、彼女を守ろうとする井浦新演じる弁護士・加瀬賢一郎の3人を中心に物語が展開するサスペンスドラマ。女子高生時代の莉央をレイプしようとして莉央の異母弟・朝宮優(興奮すると前後の記憶が消える障害あり)によって殺された大学生の父親及び真田グループを追っていた田中みな実演じる週刊誌記者を殺した犯人は誰なのか、という物語であるが、本作の魅力は「犯人探し」ではなく「人間ドラマ」の方にある。
- 物語の始まりはレイプ未遂事件
大学生の父親及び週刊誌記者を殺害(後者は事故とも取れるが…)したのは、公私共に梨央を支えてきた加瀬さんなのだが、まず第一に加瀬さんが殺人を犯すに至る始まりとなったのは、優が梨央をレイプしようとしてた大学生を刺し殺してしまい、その隠蔽を梨央の父親から頼まれて、協力してしまうことだった。そして大学生の父親を殺した背景には、その父親が「自身の子供は梨央の弟に殺されて埋められた」という事実に辿り着き警察に届けようとしたから。勿論、我が子を失った父親にも同情の余地はあるが、この父親の「自分の子供は女の子にちょっと『いたずら』しようとしただけ」「あの子にも将来があった」という被害者軽視の言葉もあり、これ以上梨央たちの人生を狂わす訳にはいかないと判断した加瀬さんはその父親を殺害してしまう。
ここまで書くと明らかだが、この物語は大学生のレイプ未遂から始まる。そしてこのレイプ未遂事件がなく、その上でこの大学生が常識的な判断が出来る人間であったなら、優がその大学生を刺し殺すこともなかったし、当然加瀬さんたちがその死体を遺棄することもなかった。更に言えば週刊誌記者も心に傷を負うことなくその後の人生を送れただろうし、あの大学生の父親にだって別の道があったはずだ。そう思うとあの大学生が自身の欲求のために身勝手な行動を取り、その結果何の罪もない人たちがその後の人生を苦しみ、人によっては不本意な形で人生に幕を閉じなければならなかったのかと思うと許し難い。
※とはいっても殺された父親の女性軽視発言から、もしかしたら育て方の中で息子があのような行動を起こす思考を作ってしまっていた面もあったのかもしれない
- 梨央と大ちゃんで異なる「涙の意味」
そういうことを踏まえると、改めて「新薬が承認された最高の日」と「警察からの加瀬さんへの疑いが濃くなり自ら身を引く最悪の日」が同一日で、前者だけを認識して嬉し涙で大ちゃんに電話をする梨央と両方を認識した上で涙を流す大ちゃんという、二人が流す涙の意味が異なる描写がより切なく映る。人生に「if」はないが、「もしあのレイプ未遂事件がなければ今頃…」と思わざるを得ない結末だった。
- 最後に…
梨央を筆頭としたメインキャラクターは勿論、殺された父親も被害者軽視とはいえ息子への「愛」を持って生きていた。それなのに、この物語の始まりを作った人物だけは「愛」がなかったことを実に悲しく思う。