ドラマ版『金田一少年の事件簿』の再放送が決まったので、堂本剛版から山田涼介版を振り返りたいと思う。初回は堂本剛版・映画『上海魚人伝説』の話。
- テレビドラマと映画の垣根を壊した
堂本剛版『金田一少年の事件簿』はテレビドラマ業界の革命的存在となり、演出を担当した堤幸彦監督の出世作となった。そして高視聴率を記録した本シリーズの完結編はテレビのスペシャルドラマではなく映画という形となることが決まった。一方で当時はまだテレビドラマの映画化は珍しく、堤幸彦監督は後のインタビューで以下のように述べている。
TVと映画が別ものだという既成概念を突き崩すことで生まれる可能性を具現化する。 試行錯誤の中で生まれたのが『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』であり、『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』でした
堤幸彦(Yukihiko Tsutsumi)氏: 「私はこれなんだ」というモノを探す放浪の旅では 得がたい財産に出会えるはずです。 | クリエイターズステーション
『金田一少年の事件簿』は半分ビデオ、半分フィルムで撮った。今見ると中途半端な折衷作品ですが、そういうふうにビデオで撮ったドラマを映画にできるという技術的な壁を乗り越えてきました
要は「当時はテレビドラマを映画化するのは珍しかったし、テレビドラマと映画の間には大きな壁があったけど、『金田一〜』ではテレビドラマと映画の間の撮影をすることでその壁を取り壊し、今では視聴率を取ったテレビドラマが映画になるのは当たり前の時代になったよね」的な趣旨の話だ。日本でテレビドラマの映画化が増えたのは2003年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』のメガヒット以後のイメージがあるが、本作はそんな『踊る』シリーズ1作目が公開された1998年10月の前年1997年12月公開の作品。更に堤幸彦監督は2000年に『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』、2002年に『トリック 劇場版』と『踊る1』と『踊る2』の間に2本のテレビドラマの映画版を公開。日本のテレビドラマの映画化が一般的になったのは当時のフジテレビプロデューサー・亀山千広氏と堤幸彦監督の影響が大きかったことは間違いない。
ちなみにその後も堤幸彦監督は『トリック』シリーズの映画を更に3本公開し、テレビドラマ『スシ王子』『SPEC』『神の舌を持つ男』も映画化した。恐らく日本で1番テレビドラマの映画化を経験した監督なのではないかと思う。それ故にテレビドラマファンとは対照的に映画ファンからは嫌われているケースが多い。
- スクリーン映え意識した「上海ロケ」
そんな堤幸彦監督の本作だが、映画だけあってアバンタイトルからテレビドラマ版の「チャララランランランランララン〜」というお馴染みの音楽と共に美雪が事件の背景設定や見所を解説するというお約束ではなく、「拳銃の銃口のアップ」と「それを向けられている男の顔のアップ」と「金魚、仮面、水が滴る蛇口、虫が集る蛍光灯などの事件現場の様子」が「呪いの唄」と共にカットバックする映像が流れ、冒頭からドラマとは異なる演出で緊張感溢れる惹きつけられる導入となっている。
懐かしい。これも某Pにいきなり「樹林く~ん、上海で金田一の映画撮りたいんだけど書き下ろしてくんない?」と笑 アマゾンhttp://t.co/CTW6UyLy RT @kindaichi20小説復刊、映画化された傑作『上海魚人伝説殺人事件』が本日発売になりました!漫画文庫と同じ棚に
— 樹林伸・天樹征丸・亜樹直 (@agitadashi) 2013年1月13日
また本作の事件の舞台はテレビドラマ版のような架空の土地ではなく「上海」という実在する都市を舞台にしたことにより、テレビドラマ版にあった何処か「子供向けな浮世離れした画面」から「現実世界と地続きの重みのある画面」を実現できた。「魚人遊戯」を筆頭とした楊雑技団のショーや小龍の無実を証明するための推理を披露するために金田一がローラブレードで現場に向かうシーンはバブル景気中で新しい高層ビルが次々と建てれている「改装中」だった撮影当時の上海の夜景が映し出されていて、見応えもある。後者は堂本剛のファンにも嬉しいサービスだったことだろう。
- 美雪との恋の決着
堂本剛版は後のシリーズ含めて唯一「完結編」と銘打たれた作品が公開され、金田一と美雪の恋の決着も描かれている。ネタバレになるので詳細は伏せるが、キメる時はキッチリキメ、それでいて最後は良い意味でこれまでと変わることのない2人の絶妙な距離感でのワチャワチャした微笑ましいやり取りが楽しめる理想的なラストだったのではないかと思った。
- 最後に…
ドラマ版シリーズで唯一映画化された堂本剛版だが、ドラマ版はDVD化され、今後配信も予定しているにも関わらず、本作はビデオ化以降のソフト化及び配信は実現していない。その一方で有料チャンネルでは定期的に放送してることから、幻の作品というほどでもない中途半端な立ち位置の作品になっている。
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次回は2代目・松本潤版のドラマの話。
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