ドラマ版『金田一少年の事件簿』の再放送が決まったので、堂本剛版から山田涼介版を振り返りたいと思う。初回は堂本剛版・テレビドラマの話。
- 最高視聴率29.9%、堤幸彦監督出世作
本作は後に『ケイゾク』『トリック』『SPEC』『20世紀少年』などの数々のヒット作品を世に送り出す堤幸彦監督の出世作。当時のテレビドラマは複数台のカメラを使うセット撮影が一般的だったが、堤幸彦監督は櫨山裕子・日テレプロデューサーの「プロモーション(ミュージック)ビデオのようなドラマにして欲しい」というオファーに応え、オールロケ・1カメ・ステディカムを駆使する異例の方法で撮影。グラグラと揺れる長回しと細かいカット割を駆使した独特の世界観を提示した映像は多くの人の心を掴み、第1シーズン最終回『蝋人形殺人事件 完結編』では最高視聴率29.9%を記録した。
回を重ねるごとにドンドン過剰なカメラワークとカット割になっていく決め台詞「じっちゃんの名にかけて」と「謎はすべて解けた」他、後に『ごくせん』『カイジ』等のヒット作を生み出す佐藤東弥監督演出回の『秘宝島殺人事件』におけるガラスの灰皿に真っ赤な血が溜まっているカットや『異人館ホテル殺人事件』の真っ赤な部屋で犯人に狙われた被害者がガラスからお酒を溢れさせるシーンなど、一枚画になる魅力的なカットも多い。また『タロット山荘殺人事件』の謎解きシーンでは山荘を上から見取り図のように撮影することで『犯人たちの事件簿』で「地味」とネタにされたトリックを映像映えする演出に落とし込むなど工夫も凄い。更に本作は堤幸彦監督の好きなスタンリー・キューブリック監督作品『シャイニング』を思わせる演出が多用されているが、その中でも同監督演出回の『蝋人形城殺人事件』での「怪人名」や『雪夜叉伝説殺人事件』の雪を背景にした曜日のテロップ表示など、その色が特に強い回となっている。
- トラウマ植え付けられた「残虐グロ描写」
堂本剛版の特徴の一つとしてアニメ版では意図的に自重した殺人シーンとは逆に、製作時が楽しんでいるとしか思えない視聴者にトラウマを植え付けるグロ描写が指摘される。勿論、今観ると『秘宝島殺人事件』の人体が真っ二つに割れている死体や『蝋人形殺人事件』の人体から首がボロっと落ちる瞬間のショット、『墓場島殺人事件』の複数人のバラバラ死体などは衝撃の反面チープさも感じる。その一方で『悲恋湖殺人事件』のジェイソンの殺戮シーンや『怪盗紳士の殺人』の眼球潰しシーン、『墓場島殺人事件』の人体をナイフで複数回突き刺すシーンなど「今見ても余裕で怖い」&「これ、今なら普通にアウトだろ…」としか思えない描写もある。
後のシリーズ以降はテレビ放送における規制が厳しくなったのか、殺害の過程を描くこと自体が少なくなっているので、今後のシリーズで越すことがほぼ不可能な堂本剛版の魅力の一つといえる。
- 根強い「ドラマ金田一は堂本剛が1番」の声
本作はパイロット版『学園七不思議殺人事件』から原作にプラスα要素をつけて捻りを加え、連ドラ第1シーズンは視聴率対策からか後のシーズンとは異なり「1事件基本1話」と尺の都合に合わせてダイジェストかつ大幅な改変が加えられるケースが多かった。また金田一のビジュアルも原作の長髪で後ろ髪を結んだものからは程遠い短髪で、何故かもみあげをカチカチに固めた謎のスタイル。『雪夜叉伝説殺人事件』で登場した明智警視は黒歴史扱いで、『異人館村殺人事件』に至っては原作の「トリック流用問題」で連ドラ1話目にも関わらず欠番。また第2シーズンは堂本剛とともさかりえのスケジュールが合わなかったのか、2人の共演シーンは少なく、更には原作では別人物である3人を同一女優に演じさせたことでかなりカオスなキャラクターが誕生してしまったなど、その他諸々含めて色々と残念な面も目立つ。
しかし放送から四半世紀が過ぎた今でも「金田一のドラマは堂本剛版が1番」という声は根強い。これは決して堤演出によるドラマファンだけでなく、原作ファンも同様である。その背景には原点回帰を謳った山田涼介版を除き、後に続いた松潤版・亀梨和也版共に原作からのキャラクター改変が大きかった。一方で堂本剛版はキャラクター自体の改変は少なく、金田一と美雪のやり取りは原作らしさを担保している。また個人的には原作の金田一の可愛こぶるも全然可愛くない間抜けで憎たらしい感じを1番再現できていたのは堂本剛なのではないかと思っている。自分は世代的に山田涼介版に1番思い入れがあるが、山田涼介はストレートに可愛過ぎた感はあった。
- 最後に…
個人的には「好きな漫画」を「好きな監督」が演出している夢のようシリーズなので、昔の作品ではあるが全話観た作品。リアルタイム世代でブラウン管を通して怪人たちの殺人シーンを見ていたら、メチャクチャ怖かったんだろうな、と思った。
次回は堂本剛版の映画『上海魚人伝説』の話。
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