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【新しい戦前】「全体主義」への抵抗と取り込まれる姿、黒柳徹子が若者世代に伝えたい映画『窓ぎわのトットちゃん』ネタバレ感想

映画『窓ぎわのトットちゃん』 オリジナル サウンドトラック

映画『窓ぎわのトットちゃん』を観た。

 

  • 徹子の質問の返答だったタモリの「新しい戦前」

本作は1981年に出版された黒柳徹子の自伝的同名小説をアニメ化した作品。原作は国内での累計発行部数は800万部を超え、日本の小説の売上歴代1位のベストセラーだ。ただ出版が40年前というのもあって、現在では「読んだことない」という人も少なくない。かくいう自分も映画化発表当時「こんな表紙を見たことあるような、ないような…」と事実上知らない側の人間だった。ただ自分が本作の予告編を初めて観たのが宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』の初日という特殊な心理状態の時だったこと、主題歌『あのね』を歌うあいみょんが好きなこと、小さい頃に『徹子の部屋』をそれなりに観ていて、今でも黒柳徹子のYouTubeをチャンネル登録しているくらいには彼女に思い入れがあることもあって、世間の本作に対するちょっとナメた態度に反して割と期待していた。個人的には昨年末公開で世間的にそこまで期待されてなかったアニメ映画『かがみの孤城』再び感もあった。「絵柄」に抵抗感を抱く人もかなりいるようだが、この点においても自分は全く気にならないタイプ、寧ろ「温かみがあっていいじゃないか」タイプだったのも良かった。一方でここまで書いといて「観に行くのはどうしようかな〜」と悩んでたのも事実。ただ現在シネコンで本作だけでなく『君たちはどう生きるか』『ゴジラ−1.0』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』と「新しい戦前」を思わせる戦争関連のエンタメ作品が同時期公開されているとの指摘を見て鑑賞を決意。何より今年流行語の候補にもなった「新しい戦前」というワードは昨年末にタモリが『徹子の部屋』で黒柳徹子に「来年はどんな年になるでしょう?」と質問された際の返答だった。

 

 

  • トットちゃんと泰明ちゃんの関係性

そんな本作は原作小説の「トットちゃんと泰明ちゃん」の関係性を物語の軸とした作品に仕上がっている。黒柳徹子自身であるトットちゃんはお転婆娘なのに対して、泰明ちゃんは小児麻痺でみんなと同じペースで歩くことが出来ない。そのため本人は周囲に対してコンプレックスを感じており、みんなとお散歩に行くこともなく教室で一人本を読んでいる。トットちゃんとは対照的な人物であり、それは両者の服の汚れにも表れている。そんな泰明ちゃんに真っ正面から向き合うのがトットちゃんだ。泰明ちゃんがトットちゃんの説得でプールに入った際に「身体が軽い」と人生で初めて自由に動き回る姿は感動的だし、その後の木登りシーンも今から思えば「ちょっと危ないよ」感も含めて子供時代を思い出せて良かった。これまで泰明ちゃんの綺麗な服に切なさを抱いていた彼のお母さんが、泥だらけの服を見て嬉しさのあまり泣き崩れるシーンも泣けた。運動会の二人三脚含めて常に自信を対等に扱ってくれたトットちゃんが、腕相撲の際は泰明ちゃんに気を遣ってワザと負けた際に彼が本気で怒ったシーンは辛かった。これまで同じ目線で遊んでくれていると思っていたトットちゃんが、自身の身体に憐れみをかけてきたのが許せなかったのだろう。戦争が本格化することでお腹を空かせるだけでなく、その気持ちを表現することすら許されない空気に泣くトットちゃんを励ますための泰明ちゃん主導のライトアップされた雨の商店街のダンスシーンは幻想的でとにかく美しい。またこのシーン(石から守ったシーンも)で泰明ちゃんがトットちゃんに救われているだけでなく、また彼女と彼に救われている対等な友達関係であることが示されているのも良い。駅でのお別れシーンもこれが「巻き戻すことの出来ない子供時代のかけがえのない瞬間」であることを予感させる雰囲気は、映画館の暗闇で観客がコントロール出来ない映し出された光を観ているからこその面もあるのだろう。

 

 

  • 「全体主義」への抵抗と取り込まれた姿

そして本作の白眉は亡くなった泰明ちゃんのお葬式会場からトットちゃんが駆け出してからの一連のシーン。大切な人の死を経験したトットちゃんが、日の丸を掲げた多くの国民たちに「戦争」という名の「死」に向かう兵士たちが送り出される道を逆走する姿は、「全体主義」に向かう日本に必死に抵抗しているようにも映る。トットちゃんがすれ違う「兵隊ごっこをする子どもたち」「片足を失った元兵隊」「暗い部屋で一人家族を失って骨壷を抱える女性」も印象的。この一連のシーンは涙が止まらなかった。そして「戦争」という名の「死」に向かっていく日本国民に対して、「泰明ちゃんはヒヨコ同様にトットちゃんたちと楽しみ日々を送ったから短い人生でも可哀想じゃなかったかもしれないけど、君たちはどうなの?」と問いかけられているようだった。そして「全体主義」に抵抗するように逆行していたトットちゃんすらも、お弁当のシーンでこれまで多種多様だった生徒のお弁当の中身が、みんな同じ「白米に梅干し」という「日の丸」を連想させるモノに変わっていることで、彼女もまた「全体主義」の中に取り込まれてしまっていることを表すシーンも見事。とにかく残酷なシーンだった。

 

 

  • 最後に…

色々なことを経験して精神的に成長した疎開直前のトットちゃんの姿も泣けた。トットちゃんが小林先生にかけてもらった「君は本当はいい子なんだよ」という言葉を次の世代の子供にかけるラストも絶望の中で希望を繋いでいくモノなので、黒柳徹子が今回の映画化を許可したのも「小林先生から教えてもらったこの想いを改めて伝えなきゃいけない、そしてこれからの人たちによって受け継がれ続けて欲しい」という気持ちもあったのかな、と勝手に想像した。作品全体を包み込むあいみょんの主題歌『あのね』によるエンドロールも素晴らしかった。

 

 

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