1〜2月の映画興行収入の雑感。
- ファンダムアニメ映画の大ヒットが連発!
年明け最大のヒットとなっているのは『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』でオープニング興行は3日間で22.3億円、8週末の累計興行収入が92.67億円と最終興行100億円突破が目前の大ヒットを記録している。ジャンプアニメの映画版といえば昨年12月公開の『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が最終興行60億円台見込みと事前の期待値を下回ったことが話題となり、その背景の一つに「近年メガヒットを記録した『原作のエピソードの一つをそのままアニメ映画化』するのではなく、良くも悪くも一昔前の本編に差し障りのないオリジナルアニメ路線だったのが関係してるのでは?」と指摘されていたが、その意味では本作は「原作のエピソードの一つをアニメ映画化」した近年のメガヒット傾向に当てはまるタイプの作品。『SPY×FAMILY』が思いの外当たらなかったのは近年のメガヒット作品と違ってメインターゲットが「ファミリー」だったことも大きいと思うが、やはり「原作のエピソードの一つを高クオリティでアニメ化して貰って、多くのファンと大画面で喜びを共有したい」みたいな欲求に応える作品が強く支持される傾向にあるのだろうか。その意味では原作者協力のもとオリジナルアニメタイプでメガヒットを記録した『ONE PIECE FILM RED』や『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の凄さを改めて感じたりもする。
この冬ジャンプアニメは『SPY×FAMILY』と『ハイキュー』だけでなく前クールの最終話と今年春放送開始の新シーズンの初回を上映する『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』も上映。オープニング3日間で6.47億円、公開66日間での累計が21.93億円で最終20億円台前半見込みと前作『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』の最終41.6億円を大きく下回る見込みだが、それでも「この作品が過去回のリバイバルと少し待てば放送される新シーズンの初回」という構成が前作で認知された後であることを踏まえれば、この内容で20億円を超えてくるのはやはり凄い。熱量の高い『鬼滅の刃』のファンの数の多さを改めて実感させられる。
ジャンプアニメではないが、この冬のアニメの大ヒットといえばオープニング3日間で10.65億円を記録して、公開73日間で累計43.2億円と最終45億円程度が見込みの『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』も忘れてはならない。とは言っても自分はこの作品のことを全く知らないので、どういう内容の作品なのかは分からないが、SNSで流れてくる感想を見ているとこちらも相当熱心なファンたちに支えられている印象。
- 日米で命運別れた漫画原作の実写映画
実写映画では野田サトルの大ヒット漫画を実写映画化した『ゴールデンカムイ』がオープニング興行5.33億円、公開80日間で累計29.42億円と最終30億円超えが見込めるヒットを記録。本作は制作発表段階で「監督は福田雄一で常連のハシカンがアシリパ役で変顔してウケを狙う寒い映画になると決まっている」という謎の決め付けからSNSで批判していい作品みたいな風潮が広まり、主演が山﨑賢人だと発表されると「『キングダム』もやってるのにまた漫画実写は山﨑賢人かよ」と不満を集め、予告編が公開されるとあまりにも小綺麗で安っぽい衣装と軽い映像から「駄作」確定というムードに包まれた。しかし蓋を開けて見れば原作ファンから好評で数字的にもヒット。公開中に起きた『セクシー田中さん』のドラマに関する一連の事件で「漫画原作の実写化には碌なものがない」という言説に対して「今やってる『ゴールデンカムイ』みたいな成功例がある」という声が上がるレベルで受け入れられた。ただアイヌ描写に関しては「この手の日本の商業大作映画にしては頑張っている」という評価で落ち着きそうだったのに、原作者の見解から「別に当事者キャスティングにそこまでこだわる必要はなくね?」派の人含めて「流石にその言い方はないんじゃ…」とプチ炎上。実写映画の評判は良いのに、原作者の発言によって作品の評価が若干下がるという珍しい事態が発生。また続編がWOWOWでドラマが放送されるスタイルであることが発表された際にも「映画は宣伝だったってこと!?」と一部で物議を醸した。
日本の漫画実写が興行的・世評的ヒットを記録した一方でアメコミ映画はかなり残念な結果に終わった。『ザ・フラッシュ』大コケによりDCEU最終作となった『アクアマン 失われた王国』は前作が16.4億円のヒットを記録していたのに対して、今回は最終8億円程度と10億円を割る見込み。前作は『ジャスティス・リーグ』が惨敗だったDCEUにおいて「ちゃんと面白い映画も出来る!」と立ち直しへの希望の光みたいな存在だったが、今回は流石に「消化試合」感が否めないことからか世界的にもコケている様子。日本では前作に続いて「『ワイルド・スピード』の監督が送る体験型アクションエンターテイメント!」とアメコミの匂いを感じさせない宣伝なのも「いや、もー、なんか凄いな」と最早笑ってしまうレベルだった。
マーベルからは「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」の『マダム・ウェブ』が公開されたが、こちらもアメリカでの試写会終了直後から「『モービウス』の方が面白かった」という感想がバズるほど不評で興行的に惨敗。日本では「いや、でも期待しないで観に行ったら結構面白かったよ…」という声も少なくないが、「そもそもこの映画が『スパイダーマン』の関連作品だとあの予告編からどの程度伝わっているんだ?」感も半端なく、最終も4億円程度の見込み。
- アカデミー賞受賞効果を発揮した日本映画
『君たちはどう生きるか』 『ゴジラ-1.0』アカデミー賞受賞作品がTOP10にカムバック
— ゴミ雑草 (@mjwr9620) 2024年3月18日
→『君たちはどう生きるか』は興行収入90.8億円突破、約6か月ぶりにTOP10入り
→『ゴジラ-1.0』は興行収入64.1億円突破、TOP5に11週ぶりにランクイン
受賞ポスターが並んでるのもイイね https://t.co/268C2AinFP
この時期は例年アカデミー賞関連作品も多く公開。今年も『哀れなるものたち』(最終5億円台程度見込み)や『ボーはおそれている』(最終2億円程度見込み)、『落下の解剖学』(最終2億円程度見込み)などが公開されたが、今年はそれらの作品よりも長編アニメーション賞を受賞した宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』と視覚効果賞を受賞した山崎貴監督『ゴジラ−1.0』に多くの日本人は注目。アカデミー賞受賞後初の週末では『君たちはどう生きるか』は週末動員ランキングトップ10に約半年振りにランクインして興行収入90億円を突破、『ゴジラ−1.0』もトップ5に11週ぶりにランクインして、公開157日間の累計は73億円を超えて『シン・ゴジラ』の最終82.5億円に迫る勢いと両作品共にアカデミー賞受賞効果を発揮した。
『君たちはどう生きるか』『ゴジラ−1.0』との対比において色々と扱いが悪い印象も受けるもう一つの日本からのアカデミー賞ノミネート作品『PERFECT DAYS』も興行収入12億円を超えるヒットになっている。
- 最後に…
1〜2月の映画興行は閑散期と認識されがちだけど、今年はファンダム映画が劇場を賑わせた様子。
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