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何故「シン・ゴジラ」「銀魂」はヒットして、「無限の住人」「ジョジョ」「ハガレン」は大コケしたのか

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「実写邦画は危機である。」

そう唱えるのは映画ジャーナリストの大高宏雄さんである。確かに昨年頃から実写邦画の興行収入は低調であり、特に大作映画は絶望的だ。

上の記事を読むと、

大高氏は『シン・ゴジラ』以降、日本の実写映画が活性化できずにいる原因のひとつとして、17年に公開された『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(東宝、ワーナー共同配給)、『無限の住人』『鋼の錬金術師』(ワーナー配給)の不振を挙げている。3作品とも知名度の高い人気コミックを原作にした話題性抜群のアクション大作だったが、『鋼の錬金術師』は興収10億円、『無限の住人』『ジョジョの奇妙な冒険』は10億円に届いていない。3作品とも配給側が狙ったような興収結果を残すことはできなかった。

と記されている。また、

人気コミックを巧みに実写コメディ化した福田雄一監督の『銀魂』(ワーナー配給)は興収39億円を記録し、17年の実写邦画No.1ヒット作になっています。この成功は大きなヒントです。

とも記されている。さらに、

興行的に成功しなかった作品のことは、誰も分析しようとはしません。今や、まるで最初から存在しなかった作品のようになっていないか。次から次に新作が登場してくるので、当たらなかった作品のことを配給側も批評する側もかまっている余裕がありません。

と記されている。なら今回は素人ながら自分が「シン・ゴジラ」「銀魂」は何故大ヒットしたのか?そして「無限の住人」「ジョジョの奇妙な冒険」「鋼の錬金術師」は何故大コケしてしまったのか?そしてこの3作品の当初の製作陣が考えていたであろう勝算とその誤算を考えていきたい。かなり偉そうな語り口になってるのは申し訳ないです…

 

 

シン・ゴジラ

興行収入:82.5億円

まずは2016年公開の庵野秀明総監督が手掛けた「シン・ゴジラ」だ。何故本作は大ヒットしたのか?もう覚えていない人も多いかもしれないが本作は公開前コケる要素に溢れていた。

進撃の巨人 ATTACK ON TITAN

1つ目は本作公開の前年に樋口真嗣監督がメガホンを取った東宝の特撮映画「進撃の巨人」が批評的にも興行的にもイマイチだった事。しかもこの作品に出演している長谷川博己石原さとみなどのメインキャストはそのまま本作にも出演している。また総監督の庵野秀明監督もアニメでは結果を残しているが、実写映画では結果を残した事がなくこの2人が作る作品はオタクの独り善がりな作品になってしまうのではと懸念されていた。 

GODZILLA ゴジラ(吹替版)

また本作の公開2年前にはハリウッドが製作費1.60億ドルを注ぎ込んで製作した「GODZILLA(2014)」がそれなりの結果を残した事。今更ハリウッドの1/10以下の製作費で日本でゴジラを作ってもショボい結果に終わるだけなのではという懸念がされていた。

しかし「シン・ゴジラ」は興行収入82.5億円の大ヒットを記録した。その理由は様々な要因が重なった結果であるが、あえて理由を説明するなら「この映画を体験したい」と観客に思わせたからではないか。本作は予告編の段階でほとんど物語の情報を与えなかった。その為実際に映画を鑑賞すると観客にとって想定外の事が次々と起こる。その体験をした観客達は周りに勧める時に出来るだけネタバレをしないように「とにかく観てくれ」と語る。これが友人1人からの勧めならスルーしたかもしれない。しかしニュースやラジオなど様々なメディアで「ネタバレは出来ないが凄い事が起こる作品」と聞き、その上で「大ヒットしている」という客観的な結果まで聞けば「自分も本作を実際に体験したい!」「この祭りに参加したい!」と考えた人は多かったのではないか?そしてこの原理は同じ年にメガヒットした「君の名は。」にも通じるものがある。「シン・ゴジラ」は参加したい祭りだったのだ。

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シン・ゴジラ

シン・ゴジラ

 

 

銀魂

興行収入:38.4億円

参加したい祭りという視点で言えば「夏だ!祭りだ!銀魂だ!」というキャッチコピーを打った「銀魂」も強かった。

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※画像は「銀魂」/ 集英社

人気マンガの実写映画版で1番ネックになるのは熱心な原作ファンからのバッシングだ。SNSを通して日夜投稿されるバッシングを見続ければ最初特にどうとも思っていなかった作品も日に日にネガティブな印象を持ってしまう。しかし本作は原作者の空知英秋先生が原作やコメントで実写映画をネタにすることで原作ファンの怒りを和らげ、逆に何か面白そうな事な起こりそうという雰囲気を演出した。

また監督やキャストも実写映画化したことを謝罪する動画をSNSに投稿するなど最初に原作ファンに下手に出る事も祭りの成功の一躍を買った。

youtu.be

そして本作は公開直前の祭り感も凄かった。何より完成披露試写会は豪華出演者が文字通り全員が浴衣を着て夏祭り状態。さらに公開初日にはエリザベスの中の人が福田組には欠かせない山田孝之だったことも明らかになり、祭りのボルテージを最大限まで上げることに成功した。「銀魂」もまた参加したい祭りだったのだ。

シン・ゴジラ」と「銀魂」の2つの共通点はSNSで口コミが広げたいと思われる作品だった事と「この祭りに参加したい!」「この体験を自分も味わいたい!」と観客に期待させる作品だった事である。

さて、長い前置きだったがここからが本題である。

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銀魂

銀魂

 

 

 

無限の住人 [DVD]

興行収入: 9.65億円

1本目は三池崇史監督の「無限の住人」だが、本作の製作陣のインタビューなどを読むと3つの勝算が読み取れる。

るろうに剣心

1つ目は佐藤健主演の実写版「るろうに剣心」が大ヒットを記録した事。実は本作は昔からよく実写映画の話が出ては消えを繰り返しており難しい企画とされていた。しかし「るろ剣」がヒットした事で企画にGOサインが出たという経緯がある。

無限の住人(1) (アフタヌーンコミックス)

ただし「るろうに剣心」は累計発行部数が5900万部の大ヒットコミックだが、「無限の住人」は累計発行部数500万部と知名度の観点からはやや物足りない。その知名度の差をフォローするのが、2つ目の勝算であったはずの「SMAP木村拓哉」が主演を張るという事。恐らく製作陣は原作のネームバリューの差はキムタクの圧倒的なネームバリューで埋め合わせが出来ると考えたはずだ。

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そして3つ目の勝算は「カンヌ国際映画祭」に出品される事。これは撮影中は不確定要素の勝算だったがカンヌでの三池崇史監督のネームバリューと時代劇という題材から当初から狙っていたとインタビューでは語っている。結果的にアウト・オブ・コンペティション部門ではあるが、「第70回カンヌ国際映画祭」で公式上映されるなど話題を呼んだ。

つまり製作陣としては「人気時代劇漫画・キムタク・カンヌ」と大ヒットの勝算が3つも揃っている大ヒットの可能性を秘めた公開になったのだ。しかし本作は興行的に大コケしている。製作陣の誤算はなんだったのか?

その誤算の1つは「SMAP解散」であり、その戦犯として世間の矛先がキムタクに向いてしまい裏切り者としてのネガティブなイメージが付いてしまったことだ。その為折角のカンヌ公式上映の話題も「ジャニーズが金で買った」などありもしない噂がネット上で広がってしまった。「シン・ゴジラ」「銀魂」がSNSを通して口コミで広がったのなら本作はその逆である。

ただし役者だけで映画興行の全てが決まるわけではない。やはり本作が大コケとなってしまった大きな理由はキムタク力の低下含めて多くの観客が作品に魅力を感じなかった事があるだろう。大ヒットする映画は年間数本しか劇場で映画を観ない観客によって支えられている。ゴールデンウィーク興行は友達やカップル・1人でもフラッと映画館に訪れやすい時期だ。ただレジャー感覚で映画を楽しむライト層はそのシーズンで一番観たい映画を一本だけ観て他は観ない傾向が強い。つまり話題作品が多く公開されているシーズンは埋もれてしまう作品が毎シーズン生まれてしまう。「無限の住人」は激戦区の中で選ばれる程の魅力は無かったのだ。そしてそれは今年の「いぬやしき」を含めて近年のゴールデンウィーク興行の実写邦画全般に言えるだろう。何故なら多くの人は「名探偵コナン」をゴールデンウィークの1本に選んでしまうからだ。

最後に作品の中身に触れると本作は原作全30巻を全て140分の尺の中に詰め込んでいる為ダイジェスト感が半端ない。また映画の多くがアクションシーンで占められているためそこが楽しいという人とそこが単調だという意見に割れた。さらにキムタクが血みどろアクションに挑戦したことを評価する人とレーティングの関係でグロシーンが物足りないという人でも割れた。本作は良く言えば「心意気はあるが惜しい作品」で、悪く言えば「全体的に中途半端な作品」だ。「るろうに剣心」のようにシリーズ化も見越して原作の一部を使って脚本をもっと練り、PG-12の限界に挑戦するアクションシーンを観せていれば大分評価も違ったのではないか?ただキムタクの役柄に沿った荒い殺陣のシーンなどはカッコ良かったので観てない人は是非観て欲しい作品ではある。

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ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 スタンダード・エディション [Blu-ray]

興行収入: 9.2億円

2本目は東宝ワーナー・ブラザースが初の共同製作・配給をしたことも大きな話題になり、シリーズ化を見込んでタイトルに「第一章」と付けるなどかなり強気だった「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」だ。

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本作は製作発表会から異例の記者会見を行うなどかなりの力の入れようだった。「ジョジョ」は累計発行部数1億部を超えるメガヒットコミックスで、近年放送されたテレビアニメでそのファン層をさらに広げた。また歴史も長いためフランチャイズ化しやすい原作だ。さらに世界的な人気もある為、海外進出も本気で狙った。東宝の市川南さんも「2017年度のNo. 1ヒットを狙う」と意気込んでいた。また山崎賢人さんを始め今話題の若手俳優をキャスティングするなどヒットする要因はしっかりと揃っていた。

しかし映画は大コケした。その理由を考えてみるとそれはやはり予告編で「ジョジョ」の世界観の魅力を伝えられなかったからではないか?三池崇史監督は本作をコミックの再現ではなく一本のサスペンス映画として演出した。その結果一本の映画としてのクオリティは上がったかもしれない。しかし「銀魂」のヒットを見ると観客は映画ではなくコミックの再現やその雰囲気を求めているのではないか?映画として成立させようとした心意気は高く評価したいが、もしかしたらアニメ同様画面に擬音を文字で出して、色彩を頻繁に変えて「ジョジョ立ち」を完全再現した方が良くも悪くもSNSで話題になりヒットに繋がったのではないか?タラレバを言っても仕方がないし、個人的には完成した作品も結構良かったと思っているのだが… 

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また「ジョジョ」は実際作品を観れば分かるがかなり原作ファン向けに作られている。(それは前述した「ジョジョ立ち」のような表面的な部分ではなく内面的な部分の話。)しかし宣伝はリーゼントをした山崎賢人がリーゼントをした山崎賢人ファンの女子高生と戯れるというイベントを開催したりしている。「銀魂」の時に「この祭りに参加したい!」と書いたが、多くの人は「この祭りには参加したくない…」と無意識に思ってしまったのではないか?

ジョジョの奇妙な冒険 (29) (ジャンプ・コミックス)

さらに言えば「ジョジョ」は独特な雰囲気を持つ原作で長期連載となっているので初心者には取っ付き難い。そのパブリックイメージを実写映画化で拭う事が出来なかったのも辛かった。あの予告ではスタンドが結局何だかよく分からない。もっと分かりやすい承太郎の「時を止める能力」とかを宣伝の前面に出せば「あっ、少し面白そうかも…」と興味を持ってもらえたもしれないのに… 何だか宣伝がどの層をターゲットにしているのか迷いが見えた。結局どの層にも「この映画を体験したい!」と思わせる事が出来なかったのだ。スタンドバトルは迫力があって楽しいし、奇妙な雰囲気も醸し出しているので原作ファンで未見の人は是非観て欲しい。

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鋼の錬金術師 DVD

興行収入:11.0億円

最後は「鋼の錬金術師」で、製作陣の本作の勝算は恐らく全27巻で累計発行部数7000万部の人気コミックという点と「暗殺教室」で大ヒットした山田涼介主演という事。そしてもう1つがCG技術の進歩により実写化において最大の壁と考えられていたアルが再現出来るようになったこと。製作陣のインタビューを読むとCG技術に対してとにかく自信を持っていてその事をウリにしたい映画だという事が伝わってくる。実際アルのCGのクオリティは日本映画の中ではトップレベルの質を誇っていたと思う。では何故コケたのか?大前提に「無限の住人」「ジョジョ」同様にSNSでネガティブな意見が広がりすぎたからだと感じる。今の時代はネガティブなイメージを打破するだけの魅力を持たないとコケてしまう。そしてほとんどの人からすればアルをCGで表現出来たからといってそれは魅力に繋がらない。何故ならそれはハリウッド大作では普通だから。もちろん製作費の違いからの努力は評価に値すると思う。ただほとんどの人は日本とハリウッドの製作費の違いなど考えない。またその視点を入れて観てくれる人は目が肥えている為どうしてもハリウッド大作と比較してCGの粗が目立ってしまう。

DESTINY 鎌倉ものがたり

さらに運が悪かったのは公開時期が山崎貴監督の「DESTINY 鎌倉ものがたり」と被ってしまった事。「鎌倉ものがたり」は日本の鎌倉を舞台に妖怪や黄泉の国を題材にした日本でしか描けないファンタジーで勝負したが、「ハガレン」は「ハリーポッター」などの海外の大作ファンタジー映画の劣化版に留まった印象を受けた。現にオープニングの興行成績はほとんど変わらなかった2作品が最終的に約3倍の差を付けられてしまったのは実際に映画を観た人達の口コミの差だろう。とにかく「ハガレン」は評判が悪かった。もちろんイタリアをヴァーチャルで再現してアクションシーンを繰り広げるなど楽しい部分もあったが…

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という訳で「無限の住人」「ジョジョ」「ハガレン」が何故コケてしまったかを真剣に考えてみた。どれも全体的には悪くないし、ワクワクさせられたシーンも沢山ある映画だった。ただし予告編以上の衝撃が無かったのも事実で、どれも無難にまとまっていた。つまり映画というアドバンテージを生かした原作を超えたと感じさせられるシーンが無かったのだ。恐らくこのレベルでも数年前までは通用しただろう。しかし「シン・ゴジラ」以降観客の目は確実肥えた。「予告の想定を超えなそうな作品」は相手にされなくなってしまったのだ。

 

 

最後に大高さんの記事には「銀魂」のヒットを大きなヒントと書かれている。しかし「銀魂」のヒットは祭りを上手く演出したに過ぎず、悪く言えば内輪ノリに過ぎない。それはテレビドラマの劇場版がただの「同窓会」と化しガラパゴス化していった流れを思い出す。個人的には内輪ノリは嫌いじゃないし、そういう映画がヒットすることに問題は感じないが、他作品で応用が出来るかと問われれば疑問だ。多くの人に楽しんでもらえるエンターテイメント映画を作るのはやはり難しい。メチャクチャ偉そうな文章になってしまいましたが、これからも日本のエンタメ映画を応援しています!