庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』を観た。
- 実写『シン』シリーズで初の「樋口監督関与なし」
本作は『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く庵野秀明監督による『シン・〜』シリーズの『仮面ライダー』版。ただ『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』と異なり現場での演出に樋口真嗣監督は関わっておらず、庵野秀明監督の単独作品となっている。世間の評価としては庵野秀明が総監督として現場を指揮しながら樋口真嗣監督が隣で調整するスタイルで撮影された『シン・ゴジラ』はマニア層からもライト層からも高い評価を受ける一方で、現場での演出を殆ど樋口真嗣監督が担当した『シン・ウルトラマン』は『シン・ゴジラ』程の評価は得られなかった。個人的にも『シン・ウルトラマン』は好きな作品である一方で庵野秀明監督の作品としては演出が緩く、逆に樋口真嗣監督の作品としては熱さが足りない中途半端さのある作品だと感じた。ただ樋口真嗣監督が戦犯扱いする一部の風潮に対しては「樋口真嗣監督がいるからこそエンタメ感が保ってているのであって、庵野秀明が単独監督の『シン・仮面ライダー』は不満だ」との反論も少なくなかった。実際、本作の予告編は「線路や工場のカットなどを映しながら、セリフなしでセンチメンタルな音楽がかかっている」と如何にも「庵野秀明監督の実写映画でござい」という感じの編集。『シン・ゴジラ』公開時は「凄くエヴァっぽい!」と思ってたが、「『シン・ゴジラ』は意外と庵野監督感は抑えられてるな」と評価を改める必要があるのではないか、などと考えてしまうレベル。「これはとんでもないエモい作品になってるのではないか」、そんな期待を胸に劇場に向かった。
以下ネタバレ
- 庵野監督、過去の実写作品の良いとこ取り
ただ予告編のセンチメンタル感とは裏腹に本編は庵野秀明監督作品でいえば『ラブ&ポップ』『式日』ではなく『キューティーハニー』寄りのエンタメ度の高い作品。しかも作品のベースである『仮面ライダー』が『キューティーハニー』よりシリアスな作風だからか、『ラブ&ポップ』『式日』的なエモい画面で『キューティーハニー』的なアクションエンタメ作品をやるという、ある種庵野秀明監督の実写映画としては理想的な組み合わせが実現している。そのため『キューティーハニー』のような明るさが上滑りをしているような感じもない。ストーリーも子供の頃に親を理不尽な理由で失ったことで他者への理解が困難になった本郷とイチローの対立軸は分かりやすく、父親の「優しさ」を受け継ぎながらも父親が行使しなかった「力」を使う決意をした本郷が「全ての人類をハビタット世界に送り込むことで幸福を得る」という『エヴァ』の「人類補完計画」的なのを立てたイチローに勝利するというのも庵野監督っぽくて良かった。これまで群れることを嫌ってきた一文字が本郷とルリ子の想いを「継承」することで、スッキリしてバイクで走り去っていくラストも爽やかだった。
- アクション面、「ハニメーション」の進化系も
アクション面も最初の東映マーク直後からいきなりエンジン音ブンブンのバイクチェイスから入り、そのまま雑魚敵の人体をクラッシュすることで血がドバドバ出る演出はいきなり掴まれたし、最高だった。ただ全体的にアクションの動きをコマ落としをしているのか戦闘の途中をスキップで一瞬飛ばされているような感覚に陥る部分が結構あった。また予算の関係なのか、場面展開が唐突に感じるシーンも何箇所かあった。複数のカメラで撮影したショットを繋ぎ合わせているためか、いきなり主観ショットが入ったりするのも戦闘の分かり難さを助長していたように思う。ただ世間的には評判がイマイチな夜の戦闘シーンは個人的にはそこまで見辛さは感じなかった。ハチオーグとの戦闘は『キューティーハニー』で使われていた「ハニメーション」の進化系みたいで楽しかったし、トンネル内で複数のライダーとバイクチェイスしながらの戦闘シーンも『FF7』の唐突に挟み込まれるミニゲームコーナーといった感じで面白かった。また工場地帯をバックに仮面ライダー同士が戦闘するシーンも『シン・ウルトラマン』のメフィラス戦に比べると僅かにだがCGのクオリティは高かったように思う。ただラストの本郷とイチローの戦闘シーンはショボい格闘戦を見せられてるようで結構ダサかった。もしかしたら疲れ果てた肉体同士がぶつかり合う泥臭いシーンという演出目的があったのかもしれないが…
- 最後に…
そんなこんなで個人的な評価は世間に反して「なんか思ったより普通だったな…」という感じ。最後に長澤まさみのサソリオーガは楽しそうで何より、という気持ち。個人的に石原さとみがシークレットゲストだと思ってたので「そっちか」と思った。本郷奏多は声だけで本郷奏多と分かったのが良かった。松坂桃李はエンドロールで「どこに出てた?」と思ったけど、分かってみればもうそうにしか見えない不思議。竹野内豊は最早『シン・エヴァ』にも何とかねじ込んで欲しかった。
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