宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』が公開された。
- SNSでのメタ的な読み解き
SNSでは本作のメタ的な考察が多い。例えば眞人の家の近くにある封印された塔は「一時閉鎖されていたスタジオジブリ」で行方不明になった大叔父は「引退した宮﨑駿監督」、そして「12個の積み木でギリギリ世界を維持している白髪の老人」は「長編12作品でスタジオジブリを維持している宮﨑駿監督」という読み解きだ。そうなると白髪の老人の子孫で「血の繋がったお前が後継者となり、積み木を一つ足して世界を維持してくれ」と頼まれた眞人は「新作を作ってスタジオジブリを維持してくれ」と宮﨑駿監督に頼まれている宮崎吾朗監督にも見える。つまり本作で描かれたファンタジー世界はそのままこれまで宮﨑駿監督が作り出してきた世界で、それ故にセルフオマージュ的な描写が多いと指摘できる。
- 眞人が塔の中の世界から持ち帰った石
カヘッカヘッカヘッ pic.twitter.com/uUYHjaNMsX
— スタジオジブリ STUDIO GHIBLI (@JP_GHIBLI) 2023年7月13日
では本作のラストで眞人が持ち帰った石の意味は何だったか。アオキジは眞人に対して「あっちの世界のことは普通覚えてない」「でも偶に石を持ち帰って覚えてる奴もいる」「ただそれでもそのうち忘れる」と自論を展開する。塔の中のファンタジー世界が宮﨑駿監督が作り出してきた世界だと仮定した場合、アオキジの指摘する「多くの人は普通覚えてない」は「普通の人は宮﨑駿監督作品を観ても覚えてない」ということを意味する。しかし映画を観た人の中にはその作品内から「何か」を持ち帰る人もいる。それが本作では「石」(石が意志というのは流石に深読みか)で表現されている訳だ。
- 錢婆「一度あった事は忘れないものさ」
錢婆「一度あった事は忘れないものさ。思い出せないだけで」#千と千尋の神隠し #金曜ロードショー #ジブリ pic.twitter.com/zhRMvo9w4v
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) 2022年1月7日
そしてそれは過去の宮﨑駿監督作品にも通じる。例えば『となりのトトロ』でメイはトトロと不思議な体験をするが、その体験はエンディングで自分より小さな子供たちのお世話をする「少し成長したメイ」にとっては既に記憶の彼方かもしれない。しかしトトロの体験をメイが忘れてしまっても、あの体験が今の彼女を作ってるのは間違いない。また『千と千尋の神隠し』の千尋は過去に自分が川に溺れた際にハクに助けられたことを覚えていなかった。ただハクに助けられた経験が今の千尋を形作っているのも間違いない。だから劇中で錢婆は千尋に「一度あった事は忘れないものさ。思い出せないだけで」と指摘したのだ。
- 最後に…
つまり本作の眞人も塔の中の世界のことはいずれ思い出せなくなるかもしれない。でも彼は確かにあの世界から石を持ち帰り、あの世界を通して成長した。そしてそれは宮﨑駿監督作品に触れて生きてきた観客も同様だ。そのため本作は宮﨑駿監督からの「オレの映画を観てきた君たち(観客は)どう生きるか」という問いかけだったのではないか、と感じる。
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