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【『バービー』×『オッペンハイマー 』】ワーナー・ブラザースが謝罪した原爆ネタ含む「バーベンハイマー」問題のアレコレ

燃え盛る炎の中、オッペンハイマーがバービーを担ぐ画像には「忘れられない夏になりそう」とコメント。バービーの髪がきのこ雲のように変えられた、原爆を揶揄(やゆ)するような投稿には「このスタイリングはきっとケン(映画の登場人物)だね」。

「原爆」連想のファンアート続々――米映画「バービー」公式SNSで物議 「侮辱的」「ネタにしていいものではない」…広島県民「受け入れられぬ」

原爆絡みで日本公開未定のクリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー 』ではなく8月11日から日本公開予定の『バービー』が炎上している。その理由は『バービー』の公式SNSアカウントがバービーと原爆を絡めたネットミームに好意的な反応を示していたから。

ワーナー・ブラザースは最近の配慮に欠けたソーシャルメディアへの投稿を遺憾に思っております。スタジオより深くお詫び申し上げます

原爆連想させる画像に「バービー」公式アカウントが好意的反応 米ワーナーが謝罪 | TBS NEWS DIG

ワーナー・ブラザースは謝罪の声明を出し「問題の投稿は削除した」としているが、現時点で日本で問題視された複数の投稿のうち何個かはそのまま残っている。

 

  • 「#Barbenheimer」、対照的な映画の梯子鑑賞

どちらの映画も大きな話題を集めたあまり、客層が分かれるどころか、両方観に行こうという現象が起こり、「#Barbenheimer」というハッシュタグまでソーシャルメディアに飛び交うようになった

「バービー」「オッペンハイマー」梯子観賞で、週末アメリカの映画館は大盛況(猿渡由紀) - エキスパート - Yahoo!ニュース

そもそも何故アメリカで『バービー』の原爆絡みのネットミームが流行っているのか。その背景にはアメリカではピンクが目印のポップで明るい『バービー』と「原爆の父」を描くシリアスで暗い『オッペンハイマー』という正反対の映画が同日公開されることから「両作品を梯子鑑賞しよう!」というムーブメントが起きた、とされている。

「バーベンハイマー」は、プロモーションが本格化した今年初めごろからインターネットで広がり始めた。バービーの華やかなピンクとオッペンハイマーの陰のある厳粛な画像の組み合わせは、ネットで模倣されるネタになる「ミーム」として定着。

全米注目の映画「バーベンハイマー」って? 3日間で333億円 | 毎日新聞

『毎日新聞』によると『バービー』と『オッペンハイマー』を合わせた造語「バーベンハイマー」は今年初めごろからインターネットで広がり始めた、としている。

実際自分もSNSで6月にはアメリカ人が投稿したと思われる対照的な両作品の宣伝用の置物が映画館で隣り合わせに置かれている画像がバズっているのを見た記憶がある。一方でその少し後辺りにピンクのキノコ雲がデザインされた「バーベンハイマー」のTシャツや今回話題となっている画像等に対して「これは流石に違うんじゃないか」「日本人として怒りを表明した方がいいのではないか」などと指摘する日本人による投稿も目にした。ただその時点では公式による好意的反応の前で非公式のモノだったことから、一部からの指摘に留まった。

また「バーベンハイマー」という造語自体は「同日公開の対照的な作品を梯子鑑賞しよう!」という意図で、問題視されたTシャツや画像はその造語から派生して生まれたモノ。そのため映画ファンの中では今となっては言いにくいのかもしれないが、「『バーベンハイマー』から派生して生まれたTシャツや画像等には否定的だけど、『バーベンハイマー』というムーブメント自体には好意的」という人も少なくないのではないか、と思う。ここには近年のハリウッド映画が人気シリーズの続編やMCUを代表するユニバース作品ばかりとなり、大予算を投下したオリジナルの単体作品がヒットしたことへの喜びと「アメリカ人も日本人同様に続編やユニバースばかりに飽き飽きしてたんだ」という共感が背景にあった。しかしその共感が今回の公式SNSアカウントによるネットミームへの好意的な反応により「アメリカ人は日本の原爆被害に対してここまで共感されてないのか…」という逆転現象が起きてしまった。

 

 

  • 人権意識高いイメージのアメリカ、原爆では…

三牧聖子氏「映画という表現に関わる仕事に従事し、『ポリコレ』に十分配慮をしているような人でも、ひとたび他国の人々のこととなれば、思慮のない、人を傷つける表現をしてしまう危険性を示した/ 今回の一件だけを見て『所詮、米国人はキノコ雲をミームにして面白がっているのだ』という見方をしてしまうのも一面的だ。アメリカでは、原爆投下を批判的にみる試みや世論が着実に広がってきている」

映画「バービー」、「キノコ雲」に好意的反応 公式SNSめぐり謝罪:朝日新聞デジタル

今回の件は「普段は人権意識が高く世界を啓蒙する立場を取っているアメリカの映画業界の人間でも日本に対してはこういうノリを取ってしまうのか…」という失望または冷笑の声も少なくない。実際、投稿は日本で炎上が起きる数日前にされたもので、そこまで特に問題視されていなかったことから、SNS担当者個人の問題ではないことは明らかだ。この点については米国政治外交や政治思想を研究する三牧聖子・同志社大学大学院准教授も『朝日新聞デジタル』のコメントプラスで「『ポリコレ』に十分配慮をしているような人でも、ひとたび他国の人々のこととなれば、思慮のない、人を傷つける表現をしてしまう危険性を示した」と指摘している。その意味では今回の件からは日本人も戦争の被害を訴えるだけでもなく、日本の戦争責任や本件とは関係のない別件についても色々と再度認識を確認する必要性も感じる。本件と絡めて「日本の地雷や戦犯、難民などのネタ的な使い方は大丈夫なのか」などの指摘は少なくない。一方で三牧准教授は本件のみを持って「アメリカはやっぱり原爆の軽く見ている」という見方をすることに対して「2015年の調査で若者世代の45%は原爆投下は『間違っていた』と回答し、『正しかった』の41%を上回った」「全体の調査でも年々その差は小さくなっている」と指摘しながら警鐘も鳴らしている。

『ワシントンポスト』の記事のコメント欄「9/11の映画とドンキーコング(暗い作品とポップで明るい作品)が同日公開され、世界貿易センターの倒壊シーンでドンキーコングが樽を落としたりするミームができたとしたら、アメリカ市民は怒り心頭に発するに決まっている」

バービー/オッペンハイマー原爆画像が大炎上。「ベトナムでは上映禁止も」...米有力紙と人々の反応は(安部かすみ) - エキスパート - Yahoo!ニュース

現に『ワシントンポスト』の記事のコメント欄では本件の炎上初期に日本で「ナチスのガス室をピンク色に染めるのか?」「アメリカ人は9.11をネタにされても怒らないのか?」との指摘が相次いでいたが、同様の視点のコメントが書き込まれたりしているそうだ。

ニューヨーク市民「最も心配していることのひとつはこの映画(オッペンハイマー)が原爆によって日本人がどれほど打ちのめされたのかを正しく認識してないこと」

「バービー」と原爆 世界も問題視 なぜ起きた? 日米「意識の差」|FNNプライムオンライン

またFNNの取材に対してニューヨーク市民が『オッペンハイマー』について「原爆によって日本人がどれほど打ちのめされたのかを正しく認識してない」などとコメントしていたことからも結局は人それぞれなのではないか、という気はする。

 

 

  • ワーナー・ブラザース謝罪も公式SNSへの投稿なし

慶応義塾大学 宮田教授:ただ、これはプレス向けの謝罪であって、SNS上ではまだコメントしていないですよね。

小川キャスター:被ばくの実相を知らない方が多いなかで、これをきっかけに広く認識してもらうためにもSNSで公式に発表・見解を示してもらいたいと感じますね。

映画「バービー」の髪型が原爆“キノコ雲”に… 公式SNSが“ハートマーク” 批判殺到に 米ワーナーはお詫び【news23】 | TBS NEWS DIG

本件でワーナー・ブラザースは冒頭にも記した通り謝罪声明を出している。しかしそれが公式SNSへの投稿ではなく一部メディアへのプレスリリースに留まっていること(海外メディアだけでなく日本の報道機関・JNNの取材にも対応はしている)も批判の声が上がっている。実際、今回の件はSNSでの投稿が問題視されているため、問題視されたSNSアカウントでの謝罪が筋なような気はする。あまり謝罪警察みたいなことは書きたくないが、日本の叩いていい認定された嫌われ組織がやったらフルボッコ間違いなしの対応ではある。何に対して謝っているのかも不明確で、取り敢えず「火消し」をしたい印象が残る。現に日本で「この手の問題に意識が高い層」及び「意識が高い層に反感を持っている層」からは今回の対応に納得いってない人が多い様子だ。この件について『NEWS23』の小川彩佳キャスターも「SNSで公式に発表・見解を示してもらいたい」と指摘していた。

今回の問題について『バービー』側が公式SNSに謝罪を投稿せずにメディアへのプレスリリースに留まっている理由は個人的に「ぶっちゃけ本音ではそんなに問題だとは思ってない」もしくは「折角盛り上がりを見せている『バーベンハイマー』のムーブメントに水を差したくない」のどちらか、もしくはどちらも、なのではないか、と感じる。

クリストファー・ノーラン監督「映画に関心を持つ私たちとしては、混雑した市場を取り戻そうと、本当にずっと心待ちにしてきました。その時がついに今やってきました。素晴らしいことです」

『バービー』と「オッペンハイマー」の全米同日公開にはクリストファー・ノーラン監督も喜んでいる「混雑した市場が戻るのをずっと待っていました」

『オッペンハイマー』側に対しても本件についてコメントを出していないことから「容認している」との厳しい批判もある。ただSNSでは「ノーランは『バーベンハイマー』に終始冷たい反応」「前作『TENET』で決別したワーナー・ブラザースが公開日を被せてきてイラついている」との指摘もあるが、実際はIGNの取材に対して同日公開についてはポジティブなコメントをしている。ノーランが「バーベンハイマー」のネットミームについてどのような見解を持っているかは不明だが、コロナ禍の映画館の不況ぶりを踏まえれば個人的なことは置いて一般論として「大作映画が同日公開されて映画館が盛り上がるのは良いこと」という趣旨のコメントに嘘はないのだろう。

アメリカで先週末『オッペンハイマー(原題)』を鑑賞した人たちの6%は、本当は『バービー』を観たかったが満席だったため、代わりに『オッペンハイマー(原題)』を観ることにした人たち

『オッペンハイマー』興収を伸ばした理由、『バービー』が満席だからだった|シネマトゥデイ

日本では「『オッペンハイマー』側には『バーベンハイマー』について否定的なコメントを出して欲しい」との要望もあるようだが、『バービー』のノリを踏まえると「そもそもその必要性を感じてない」可能性が高いだろう。また『オッペンハイマー』のヒットは「バーベンハイマー」のムーブメントの追い風を受けているのも明らかなので、案外好意的な可能性もあれば、仮にネットミームに思うところがあっても、ここでもやはり「水を差したくない」という気持ちも少なからずあるのではないか、と個人的には思った。

 

 

  • 最後に…

謝罪後も炎上は収まりきらない中で行われた『バービー』のジャパンプレミアでは「監督・プロデューサー共に本件についての言及はなかった」と報じられている。一方で日本語吹き替え版でバービー役を演じた高畑充希はジャパンプレミア前にInstagramのストーリーに「今回のニュースを耳にした時、怒り、というよりは正直、不甲斐なさが先に押し寄せてきました」などとコメントを投稿した。この投稿がなかったら批判は高畑充希にも向いたことは容易に想像できるため、危機管理意識の高さを感じる。最後に本件が話題になる度に『オッペンハイマー』もセットで語られライト層にはネガティヴイメージを振り撒いてしまったが、今回の騒動が日本公開に悪い影響を与えないことを願う。

 

 

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