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【ネタバレ感想】スタジオジブリ・宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』の眞人と母親の「吉野源三郎の小説」を基点にした円環構造

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宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』が大ヒット公開中だ。

 

本作では主人公・眞人が火事で亡くなった母親の代わりに新たな母親となった妹のナツコを救い出すために塔の下の世界へ迷い込む、という物語。ただ眞人は当初ナツコが森に迷い込んでいる様子を見ていたが、特に声をかけるなどはせずにスルーしていた。しかし眞人は自身の部屋で亡き母が自らに送った吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』を読むことで感涙。行方不明になったナツコを救いに行くことを決意する。

 

 

ここで吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』のメッセージを確認すると主人公のコペル君が「世の中は誰かのためにっていう小さな意志がひとつひとつ繋がって、僕たちの生きる世界は動いている」との境地に達し、作者から「コペル君はこういう考えで生きていくようになりました、最後にみなさんにおたずねしたい、君たちはどう生きるか。」と読者に問いかける、という形で提示される。劇中の描写的に眞人が小説を最後まで読んだかは不明だが、眞人が本作を読んでコペル君が達した境地「誰かのために」という意志のもと「ナツコさんを救いに行く決意を固めた」との見方はできる。

 

 

そしてここで重要なのは眞人が救ったのはナツコだけでなく自身の母親になる子供時代のヒミも救ったという点。ヒミが何故あの世界に迷い込んでしまったかは不明だが、眞人に対して「自分の母親も亡くなった」と語っていたことから、眞人同様に「自身の母親を亡くした喪失感故に現実世界を生きるのが嫌になり、あの世界に逃げ込んだ」という可能性が考えられる。もし仮にヒミのあの世界に迷い込んだ理由が「母親を亡くした喪失感」なら眞人と同様の問題を抱えていたことになるが、眞人が自身の妹を救う姿や自身を友達と認識してくれたことなどから「元の世界に戻ってこの子(眞人)を産みたい」という気持ちに達する。ヒミにとって自身を救ってくれた人を産むということは仮にその後火事に焼かれて死ぬ運命が待ってたとしても、元の辛い現実世界に戻って生きるに値するだけの価値を見出したのだ。

 

 

老婆らの説明的にヒミは眞人と異なり扉から元の世界に戻った時点であの世界で起こったことを「忘れた」のだろう。ただ『千と千尋の神隠し』の錢婆的ロジックでいえば「一度あった事は忘れないものさ。思い出せないだけで」。おそらくヒミも思い出せないだけで眞人が「誰かのために」という意志で行動する姿に生きる希望を貰ったことを忘れてない。だから彼女はそうしたメッセージ性を持つ吉野源三郎の小説を眞人に残し、彼はその小説を読むことで「誰かのために」という意志で行動し自らの母親を救った、というお互いの「誰かのために」という意志によってお互いを「救い合った」、という「円環構造」に本作はなっていたのだ。だから本作のメッセージは「友達を作る」だし、本作のタイトルは『君たちはどう生きるか』なのだと個人的には感じた。

 

 

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