ネタバレ注意
映画『ミステリと言う勿れ』を観た。
- 原作ファンからは不評だった風呂光さんの出番は…
本作は田村由美の同名漫画をフジテレビの月9枠でドラマ化した作品の劇場版。ドラマ版では飛ばされた原作の人気エピソード「狩集家遺産相続問題」の実写化となっている。ドラマ版は平均視聴率一桁が当たり前の時代に最高視聴率13.6%、平均視聴率11.8%のヒット作で、ドラマファンからの評判は高い。一方で原作ファンからはこの手の原作アリのミステリードラマにありがちな「原作を改編して1話完結の物語に仕上げる」方式ではなく週を跨いで原作を丁寧に描いている点は好評価も、風呂光聖子の「久能整に恋心を抱いている」などの追加設定がかなり不評だった様子。原作が否定している女性へのステレオタイプなイメージを背負わされているとしか思えないオリジナルシーンがあったことなどからもただ単に「原作とキャラが違う!」以上の批判が浴びせられているように感じた。そんな経緯から映画化が発表された当初から「楽しみだけど、どうせ原作には出てこない事件にも関わらず風呂光さんが出しゃばってくるんでしょ」と一部ネガティヴな声が上がっていたが、実際公開された映画を見るとドラマファンへのサービスカットとしてエンディング中に顔見せ程度に登場するだけで本編には一才絡んでこなかった。個人的には「映画の余韻としては東京の警察内のシーンは無い方が良かったかな…」とも思ったが、良くも悪くもフジテレビ映画っぽくて「まー、お祭りだしね」という気持ちで眺めてた。
※誤解を与えたくないので明記しておくが、風呂光さん役の伊藤沙莉はメッチャ演技うまいし、キャラ改変が受け入れられない層からも好評価
- アンチ「骨肉争い」路線だけど真相はドロドロ
本作のストーリーは予告編でも散々アピールされてた通り、狩集家の遺産相続を巡る『犬神家の一族』的な物語。原作だと遺産相続についての蔵の話がされるのは洋風な場所だが、映画版では正に『犬神家の一族』を思わせる和風テイストな画面。道を歩いていると上から頭めがけて植木鉢が落とされ、階段を降りようとすると油が塗られて滑り落ち、蔵にいると外から中に閉じ込められ、命が奪われかねないドロドロの「骨肉争い」が展開されていると思いきや、これは整に「助けてくれ」と頼んだ原菜乃華演じる汐路による自作自演。父親が居眠り運転をして事故を起こして亡くなったという現実を受け入れられず、「この家は遺産相続のために人が死ぬ!父親の死も仕組まれたことだったんだ!」という考えを裏付けようと自ら親戚間の対立を煽ろうとした、という動機だった。汐路の犯行を暴いた整は親戚一同の前で「ホラー映画とか見てても思うんですけど、バラバラに行動しないでみんなで一緒に行動すれば良いじゃないですか」と説き、そのままスペシャル版のタイムカプセル編の如く親族みんなで謎を解いてハッピーエンドの感動路線に向かうのかと思いきや、そこから明かされた真相は金田一耕助もビックリのドロドロ具合。整が一族に天パがどうかを問うシーンはお約束のギャグに見せかけた伏線になっていて中々良い演出だと思った。
- 「子供って乾く前のセメントみたいなんですって」
本作で整から繰り返し語られるのが「子供って乾く前のセメントみたいなんですって。 落としたものの形が そのまま跡になって 残るんですよ」というセリフ。相続争いが始まって直ぐにライバルの子供をキャラメルで買収しようとした新音にも、ラストで汐路にカウンセリグを進める際にも口にした言葉だが、やはり子供の頃受けたモノは良くも悪くもその後の人生に大きく跡として残るのが現実。今回の犯人も子供の頃から加害者として復讐されるのではないかという恐怖を刻み込まれていたから、犯行に及んでしまったし、逆に被害者の方はその恨みを伝えられていなかったから復讐に走ることもなかった。その意味では今回の若き犯人に取り返しのつかない痕を残したおじいちゃんたちもまた子供時代に彼らにとっての大人によって跡をつけらた被害者の側面もあったのかもしれない。
- 最後に…
整は「アメリカの刑事ドラマを見ると〜」との文脈で汐路に「少しでも跡が埋められるように」とカウンセリグを進めていたが、実際アメリカでは多くの人が気軽にカウンセリングを受けるのに対して、日本では本当に精神的に追い込まれてギリギリの所になってようやく来る人が大半で、そもそも選択肢に入ってない人も多いそうだ。手遅れになる前に弱さを認めることが大切なのだろう。最後に「女性という言葉はおじさんにとって都合良く使われている」的な話は結構タイムリーで苦笑いした。
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