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【ネタバレ】新海誠監督・震災三部作『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』と「喪の作業」

すずめの戸締まり

ネタバレ注意

新海誠監督は『すずめの戸締まり』の入場特典『新海誠本』で「災害に限らずとも、大切な人を失ったことを乗り越えて、受け入れていくにはある種の段階がある」「(『喪の作業』に当てはめると)僕にとって『君の名は。』は最初のステップで、それを踏まえて『天気の子』で次の段階に入った」「それで言うと『すずめの戸締まり』は、『君の名は。』と『天気の子』を踏まえたうえで、ようやく状況を受け入れて作った作品」と語っていた。

 

  • 「喪の作業」とは…

「喪の作業」とは人は大切な人やモノを失った際に最初はそれを受け入れることができず、次第に受け入れていくと次に喪失に対しての怒りや抗議の気持ちが湧き上がり、それが過ぎると喪失に対して肯定的な見方ができるようなり、気持ちの再建が訪れる、という人間の心理的段階のことを指す。

 

 

  • 災害の死をなかったことにした『君の名は。』

君の名は。

新海誠監督は東日本大震災による影響を大きく受けた震災三部作の第一弾『君の名は。』を「喪の作業の最初のステップ」との認識を示している。実際『君の名は。』は「災害で亡くなった人たちをタイムスリップによって生き返らせる」というストーリーとなっており、「震災によって多くの人が亡くなったこと」を受け入れられていない段階の作品だったことが読み取れる。そのために『君の名は。』では最終的にファンタジー的展開で災害での死を「なかったこと」にしてしまった訳だが、この展開に対して公開当時一部から批判を浴びた。

 

 

  • 批判相手を更に怒らせる展開の『天気の子』

天気の子

もちろん、被災して大切な人を亡くしたことで辛い想いをしている人たちからすれば実際の震災を背景にしている作品で「死を回避する展開」は現実では叶わない夢であり、それが「男女の恋物語」のステップにされること含めて不快感を抱くのは分からなくもない。一方で監督心理としては「実際に死んだ人は生き返らないんですよ!」という批判は正論ではあるが「そんなことは分かってるんだよ!」という反発心が生じたのではないかと思う。

『君の名は。』の公開期間中だと、テレビをつけても、雑誌を見てもそういう感じで。「ガキっぽい映画だ」みたいな言われ方もずいぶんしましたし、「代償なく人を生き返らせて、歴史を変えて幸せになる話だ」とも言われました。「ああ、全く僕が思っていたことと違う届き方をしてしまうんだな」と思いました。

でもそこで「じゃあ、怒られないようにしよう」というふうには思わなかったです。むしろ「もっと叱られる映画にしたい」と。そのとき自然に浮かんできたのがそちらの感情だったんですよね。『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい。たぶんそれこそが、そのときの僕の表現欲求の核にありました。

「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい」――新海誠が新作に込めた覚悟 - Yahoo!ニュース

現に新海誠監督は次回作『天気の子』で「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせよう」と思ったという。そのため『天気の子』では「死んだ人は生き返らないんだよ!」という正論に対して「じゃあ、次は愛のために東京を沈める作品にします!」と逆ギレするような展開の突き抜けた作品になっている。これに対して案の定「なんて身勝手な主人公なんだ!」と怒る人が続出したが、『天気の子』のパンフレットによると「雨が降り止まない東京」は「それ(世界情勢や環境問題の変化)を止めなかったのも僕たちです。今の世界は僕たち自身が選択したもの」であり、一見「主人公の身勝手に見える選択」を主人公が強いられたのは「何も知らない身勝手な大人たちのツケを払わされた少女のため」と更に怒っている人を怒らせかねない構造になっているのも中々だ。

 

 

  • 最後に…

一方で人は強い怒りを放出した後は冷静さを取り戻す。そして現実を受け入れて、次のステップに進もうとする。だから『君の名は。』『天気の子』の先にある震災三部作の完結編『すずめの戸締まり』では扉の向こうですずめが既に亡くなった母親と再会するなどという展開は描かれない。幼い頃の自分を救うのは死者ではなく母親の死を受け入れて12年間生き続け、更にこれから先の未来を生き続けようとする今を生きる自分自身だったのだ。

 

 

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