
宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』の「塔の下の世界」と「インコマン」の話。
- ふくれあがり、均衡と制御を失った現実世界
「ふくれあがり、均衡と制御を失った現実世界の似姿として描かれた世界へ、眞人はサギ男とともに、深く、深く分け入っていきます」/出典:『君たちはどう生きるか』パンフレット
本作は自身の疎開経験や戦闘機の部品作りをしていた父親と結核で甘えきれなかった母親との複雑な関係を詰め込んだ自伝的ファンタジー映画だ。ここに登場する大叔父が作り出した「塔の下の世界」は西洋風のファンタジー空間だが、そこでは「大衆の戯画」として描かれるインコマン(パンフレット参照)たちとそれを率いるインコ大王の膨張によって世界の均衡は保てなくなり、崩壊する様子が描かれる。
- ふくれあがり破裂に向かう日本
『風立ちぬ』のカストルプ「ここ(軽井沢)は忘れるに、いいところです。チャイナと戦争してる、忘れる。満州国作った、忘れる。国際連盟抜けた、忘れる。世界を敵にする、忘れる。日本破裂する、ドイツも破裂する」
これは宮﨑駿監督がインタビューや『風立ちぬ』で描いた欧米列強に対抗しようと近代化を進め、大陸に進出し、戦闘機などを大量生産することで国民と軍部が膨張していき、敗戦を持って破裂した当時の日本と重なる。大叔父は眞人に「殺し合い、奪う合う愚かな世界に戻るのか」と問いていたが、大叔父が作った「塔の下の世界」も似たような状況に陥っていて、最終的に外の世界の日本の敗戦という形の破裂とほぼ同時期に破裂をきたしてしまった訳だ。
- 軍国主義と資本主義
宮﨑駿監督「1865年の開国から40年で日露戦争に勝った、巨大な借金を残して。その後、40年かかって軍閥政府が国を亡ぼした。そして、1945年から1985年ぐらいまでの40年間は、経済成長をやってうまくいったように見えた。バブルが弾けた後は、どうしていいかわからないまま没落していく40年になっている」
そして「塔の下の世界」は敗戦後の経済大国を目指すがバブルは崩壊し、原発も弾けた戦後日本、現在の日本の姿も重なってくる。ここからは宮﨑駿監督の思考には「モノに溢れる社会で人々の心は荒み、膨張し、最終的に破裂する」という考えが見て取れる。また宮﨑駿監督は半藤一利さんの「日本の近代の歴史は40年ごとに区切られる」説から、約10年前に「失われた20年は後20年失われる」という趣旨の主張をしていたが、10年経った今「失われた20年」は「失われた30年」になっているので、10年後に日本は敗戦級の破滅をするのかもしれない。
- 最後に…
インコマンはリアルなインコにすると、細かい仕草も気にしないといけないため、そうではない、目がちょっと顔から飛び出すなど漫画映画っぽいデザインになったそうです。
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) 2025年5月2日
作画打合せで宮﨑駿監督が「インコマンは本当にばかばかしく描いて」「心の底からバカを描くと罪のないものになる。👉続く pic.twitter.com/WfVJP0dAwM
続き👉なんだかんだ人生を楽しんでいるという生活感を」と説明されたそうです。#君たちはどう生きるか#金曜ロードショー
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) 2025年5月2日
鈴木敏夫プロデューサー曰く「塔の下の世界」は「現実世界」だけでなく「ジブリ」、「眞人」と「インコ大王」は「宮﨑駿監督自身」、「大叔父」は「高畑勲監督」がモデルらしいけど、そうなると劇中で食べることばかり考えてたり、無邪気にパレードを楽しんでたり、大叔父の部屋を「美しい!」「美しい!」と涙を流して喜んでいた「大衆の戯画」だというインコマンのモデルは、何も考えずに軍国主義に染まったり、資本主義社会で大量消費を謳歌したり、ジブリの新作となると劇場にワラワラと駆け付ける我々観客の大半がモデルなのだろうか…
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