日本映画のCGを観ているとき、ハリウッドの作品に比べて「なんか、ショボいな…」と感じることはよくある。何故なのか…
- CGは予算だ!
それに対してよく聞くのが「日本映画はハリウッドに比べて予算が少ないからCGのクオリティが低い」という話だ。ではなぜ予算が少ないとCGのクオリティが下がってしまうのか?山崎貴監督のインタビューによるとCGはトライ・アンド・エラーを繰り返せば繰り返すだけクオリティが上がるものなのだという。分かりやすく例えるなら、英単語を覚えるのに1回だけより100回繰り返したほうが定着するのということなのだろう。このトライ・アンド・エラーがハリウッド映画では200回繰り返せるという。
一方で日本映画は全てのカットに10回すれば破綻してしまう環境で作っており、基本的に日本映画のCGは1・2回でOKとしてしまう状況にあるのだという。つまりたった1カットで199回分の差が出ていることになる。ということは、200回繰り返したカットを2時間分積み重ねたハリウッド映画のCGとほとんど1・2回でOKにしてしまっているカットが積み重なった日本映画のCGでは大きな差が出てしまうのは当然ということになる。これは単語テストで100個の単語を100回繰り返し練習した人と100個の単語を1回だけ練習した人で大きな差がつくのと同じ話だろう。
そして何故日本映画はハリウッド映画のようにトライ・アンド・エラーが出来ないかというと、ここで予算の問題に繋がってくる。CGは人間が作る、つまり人件費がかかる。その上、コンピュター使用料が発生する。映画評論家の町山智浩さんによると実写版「進撃の巨人」では人件費とコンピュター使用料が時給で支払われたためCGに時間をかければかけるほど予算がかかってしまう仕組みになっている。
つまり日本映画はハリウッドに比べて予算が少ないため人件費とコンピュター使用料は抑えなくてはならない。そのため「人件費とコンピュター使用料を抑えたいからトライ・アンド・エラーを繰り返せない」=「予算が少ないからCGのクオリティが低い」という式が成り立つのだ。
- 日本映画とハリウッド映画の製作費
ここでハリウッド大作と日本の大作映画の製作費をジャンルごとに出来るだけ近い公開年の映画で比較(本当は山ほど比較したいのですが邦画で製作費が発表されてるのが少ないので難しい…)したいと思う。
- スペースオペラ
2010年公開の山崎貴監督の『SPACE BATTLESHIPヤマト』は宣伝費を含め製作費20億円(おそらく実製作費は10億円前後)、2009年公開のJ・J・エイブラムス監督の『スター・トレック』は宣伝費なしで約150億円。
- 飛行機の描写
2012年公開の羽住英一郎監督の『BRAVE HEARTS 海猿』は製作費約10億円(正確には届いていないらしい)、2016年公開のクリントイーストウッド監督の「ハドソン川の奇跡」は製作費約60億円。ただしどちらの作品もフルCGではなく海猿は模型を、ハドソンは実際に機体を購入した。ここでも予算の差が出ている。
- ディザスター
ディザスター映画の代表として日米ゴジラを比較したい。2016年公開の庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』の製作費は約13億円、2014年公開のギャレス監督のギャレス監督の『GODZILLA』は製作費約160億円とこちらもかなりの差が付いている。一方でこれらの作品のCGは、確かに日本映画の方がショボいのは事実だが、製作費程の差は感じさせない。
- ファンタジー
ファンタジー映画としては2017年公開の『鋼の錬金術師』とハリウッドではなくイギリスの2016年公開の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を比較すると、前者は約9億円に対して後者は約180億円。製作費の差がそのまま、CGから美術の差にストレートに出ている感は否めない。
- 最後に…
ショボい、ショボい言われる日本映画だがハリウッドに対してかなり悪い環境でがんばっているとは思う。しかし同じ値段を払って映画を観る観客にとってそんな事情はこれっぽっちも関係がない話なのも事実だ。
これからも日本のCGスタッフには辛い罵声を浴びさせられる事が多い中で頑張って欲しい。