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細田守監督作品『竜とそばかすの姫』で「48時間ルール」を誤認する人が少なくない理由と現実世界の問題

竜とそばかすの姫

ネタバレ注意

細田守監督作品『竜とそばかすの姫』は後半の重要なシーンで少なくない観客が「48時間ルール」について誤認している可能性がある。

 

  • そもそも「48時間ルール」とは?

「48時間ルール」は以下の通り。

虐待通告受理後、原則48時間以内に児童相談所や関係機関において、 直接子どもの様子を確認するなど安全確認を実施する

https://www.mhlw.go.jp/content/000517278.pdf

つまり「児童相談所は通報から48時間以内に安全確認に行く」というルールだ。

 

 

  • 『竜そば』の演出的にルールを誤認する人多数

一方で『竜そば』の該当シーンは以下の通り。

「もしもし、恐れ入りますが今から伝えます地域に至急保護して頂きたい子供たちが…」

「えっ?直ぐには出来ない?」

「ルール?」

「48時間!?じゃあ、その間にもしものことがあったら…」

このシーンは主人公サイドのセリフのみで、電話の向こうにいる児童相談所側の声は一切描かれていない。それ故にこの受け答えだけを素直に聞くとまるで児童相談所が48時間は子供を助けに向かわない、と誤認されかねないシーンとなっている。ちなみに細田守監督書き下ろしのノベライズ版の当該シーンは同様のセリフの直後にト書で現実世界の「48時間ルール」の説明が記されているため、設定は現実世界のルールに沿っていることは間違いない。しかし映画では「48時間ルール」の説明がないため「えっ?この世界の児童相談所って48時間動かないルールがあるの?おかしくない?」とノイズになりかねないし、下手すれば「すずを現場に向かわせるための強引な設定」と捉えられてしまう恐れもある。そのため劇中のセリフをもう少し工夫したりするなどして「48時間ルール」は「48時間以内に安全確認をしに行くルール」だと明確に示した上で主人公サイドの共通認識として「48時間以内なんて悠長なことは言ってられない」「今すぐ助けに向かわなければ」という空気感を演出した方が良かったのではないか、と感じる。

 

 

  • 現実世界の問題

本シーンに対しては「細田守監督は相変わらず行政を信用してない」という批判意見があった。ただ「48時間ルール」に関して以下のような問題が指摘されている。

厚生労働省は1日、児童虐待を疑う通告から48時間以内に児童相談所などが子どもの安否を確認するルールが守られていない事例が、2018年7月~19年6月に1万1984件あったと明らかにした。同期間の通告全体の7.8%に当たる。

虐待の安否確認1.2万件守れず 児相「48時間ルール」: 日本経済新聞

そのため該当シーンで主人公サイドが不安になるのを無理くりな行政批判だとまでは思わない。また「48時間ルール」に関連した記事で『朝日新聞デジタル』は以下のような見解を示している。

(安全確認の結果)家庭環境などに課題や危惧がかいま見えることも少なくない。そんな親子には、何らかの支援が必要だ。子どもの安全が確認できても、それで終わりではない。

虐待死防ぐため「48時間ルール」(児相の現場から):朝日新聞デジタル

この見解を踏まえると『竜そば』の虐待されてた少年の主人公の「助ける」に対する「助ける、助ける、助ける… 何度も聞いた。でもどうにもならなかった」的なセリフも適切な支援がなされてこなかった可能性も感じさせる。一方で結末の「戦うよ」と決意するラストは社会ではなく個人の気持ちの問題に矮小化してるようにも感じさせるので、この点に関して批判的な意見が出るのもやむを得ないようにも思えた。

 

 

  • 最後に…

『竜そば』は前半はかなり好きなので、後半はもっと脚本を練って欲しかったように思う。

 

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