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「『思い出のマーニー』の後悔」「バルス祭りの失敗」「満席状態の演出」、宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』とSNSの宣伝戦略

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宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』がこの夏最大のヒットとなっている。

 

  • 鈴木敏夫P、2017年段階で「大宣伝はやめる」

東映 【映画パンフレット】 THE FIRST SLAM DUNK 監督:井上雄彦 声の出演:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太 スラムダンク

本作の公開前の事前情報は「ポスター1枚のみ」で、予告編は勿論パンフレットも後日発売と徹底的な秘密主義の宣伝が展開された。鈴木敏夫プロデューサーは昨年12月に『THE FIRST SLAM DUNK』を引き合いに「『スラムダンク』方式で行く」と宣言していたが、実際は2017年段階で「大宣伝もやめる」(『図書』2017年7月号)と述べていた。一方で2017年当時は「(宣伝は)予告編と新聞広告くらい」と予告編と新聞広告など最低限の宣伝はやる方針を示していた。ただ最終的に予告編すら公開しない方針に舵を切ったのは負けず嫌いな鈴木敏夫プロデューサーが『スラダン』が情報を伏せる宣伝で大ヒットしたのを見て「二番煎じだと思われたくない」等の対抗意識から「予告編すら公開しない」というより極端な方向に走ったのではないか、と感じた。

 

 

  • 『思い出のマーニー』の宣伝の後悔、活かされる

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本作では予告編などこれまで行われてきた宣伝展開をしない代わりにSNSウケに力を入れた。鈴木敏夫プロデューサーは『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』で『思い出のマーニー』の宣伝について「いまや広告の匂いがするものは嫌われて、SNSによる口コミが宣伝の主流」と分析した上で「リアルな世界でいかに"ネタ"を作り、それをどうやってソーシャルメディアのほうに流して話題にしていくか」という方針を示したが「残念ながら面白い展開はできませんでした」と振り返っている。この発言を踏まえた上で本作の公開前に撒かれたネタを確認すると「菅田将暉や米津玄師に宮﨑駿監督と鈴木敏夫プロデューサーが花を送る」は正に「リアルな世界で"ネタ"を作り、それをどうやってソーシャルメディアの方に流して話題にしていくか」の成功例。またネタ元がSNSではあるが、眞人の父親の声優を務めたキムタクの出演匂わせ投稿とスタジオジブリ公式によるハウルの「ありがとう」投稿もこの範疇に入るだろう。

 

 

  • 「バルス祭り」の失敗、ネット民の自発性刺激

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またSNSの使い方としてはスタジオジブリは『金曜ロードショー』で『天空の城ラピュタ』が放送される度にネットで盛り上がっていた「バルス祭り」をデータ放送でカウントダウンを表示するなど公式が参入したことで下火にさせてしまった過去があるが、今回は公開初日にハッシュフラッグを使って米津玄師の関与を発表するなどを含めてネット民が嫌う「押し付けがましさ」ではなくネット民が好きな「自分で見つけた」感を演出できた。ネットでは企業から押し付けられたモノには拒否反応を示すが、自分で見つけたモノは仮に企業の戦略だと分かっていてもいち早くそれに気づいた自分を知ってもらいたくて他者に広めたがる傾向がある。アオサギのビジュアルも「君生きバード」と愛称がつき、全体像を想像するなどの大喜利にも繋がって広く拡散された。こうしたネット民を萎えさせずに刺激することで自発的に情報の拡散を促すSNS戦略は非常に上手かったように思う。

 

 

  • 「1館1日6回まで」の回数宣言、満席状態を演出

キネマ旬報 2023年9月号 No.1928

その上『キネマ旬報』2023年9月号 No.1928によるとスタジオジブリは「常に満席状態にしたい」という理由から劇場側にIMAXとドルビーシネマは別計算で「1館1日6回まで」と要望を出し、興行サイドもそれを受け入れたという。コロナ禍以降『鬼滅の刃』を皮切りに期待の超大作は各劇場スクリーンジャック状態で劇場によっては最大40回以上の上映回数が用意されることも一般化していたが、本作ではそれがなかった。その結果、金曜公開初日から月曜祝日までのオープニング4日間の都心はほぼ全回満席状態で、それがSNSで「流石、宮﨑駿監督最新作」と話題になっていた。

ここまでの反応を想定しての要望だったら凄いが、もしかしたら逆に上映回数を多く用意した結果空席が目立ち「ガラガラ」と話題にされるのを恐れたという「危機管理」の面もあったのかもしれない。今の時代、SNSでの口コミは映画興行にとって大きなプラスになる可能性を秘めているが、その逆も然り。特に本作は狙われやすい作品だ。公開初日から空席が目立つ座席表のスクリーンショットを貼られて「大コケ」とネタにされたら堪ったものではない。そしてSNSで厄介なのは仮に本当はヒットしていても、その一部を切り取った文脈無視のスクリーンショットによって「宮﨑駿監督の最新作はコケた」という間違ったネット世論が形成される恐れもある。どこまで狙ったかは定かではないし、都心だと「満席で観れなかった」という人も一定数いるようなので「もうちょっと上映回数あっても良かったのでは…」感もあるが、満席状態の演出としてはこちらも上手くいっていたのではないか、と感じた。

 

  • 最後に…

本当はこの記事で「オープニング興行は『風立ちぬ』超えのスタートも…」的な内容にしようと思っていたけど、ここまでて2000文字を超えてしまったのでその辺の話は後日に続く。かも。

 

 

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